野球選手で名誉な「クラッチヒッター」… 試合終盤緊迫の場面で結果の出ないカブスの「クラッチ」は?

[ 2023年6月3日 14:23 ]

カブスの鈴木誠也(AP)
Photo By AP

 野球には「クラッチヒッター」という言葉がある。接戦の試合終盤、チャンスやプレッシャーのかかる場面でヒットをよく打つバッターのことで、そう呼ばれるのは選手として名誉なものだ。

 しかしながら、統計を用いた野球の分析方法「セイバーメトリクス
」の世界では、米国のスポーツライター、ビル・ジェームス氏などにより、キャリアを通してチャンスに強い打者などはほとんど存在せず、「クラッチヒッター」という考え方は神話で作り話に過ぎないと打ち消されている。

 その是非はともかくスポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」が「今季のカブスはチャンスで打てないために負けが込んでいる」と指摘している。

 5月31日のレイズ戦。3-4と1点を追う8回1死1、3塁、9回1死満塁という好機にいずれも得点できず、1点差のまま負けに終わった。6月1日終了時点で今季の1点差の試合は4勝11敗、チーム成績は24勝31敗だ。

 ジェド・ホイヤー編成本部長は「攻撃でもピッチングでも、大事な場面で結果を出せていない。チームとして改善していかないといけない」と話している。

 ピッチングではブルペン(中継ぎ投手陣)が弱点、ブルペン防御率4・60はナ・リーグワーストだ。

 攻撃陣については全体で見るとチーム長打率は全体5位など、数字は悪くないが、ここぞという時に打てない。「wRC+」という打撃指標があるが、こちらは平均的な打者と比較し、得点力の大きさをパーセンテージで表す。「100wRC+」なら平均、「150wRC+」は平均より50%多く得点を生み出していることを意味する。この「wRC+」で見ると違いは顕著だ。普段は「109wRC+」で30球団中6位なのに、重要な局面になると「66wRC+」でナ・リーグ最下位、30球団では28位に沈んでいる。

 主軸のダンスビー・スワンソンは「66wRC+」について、「ゲームがどちらに転ぶかわからない状態で、ウチが良くないということ。これは秘密でも何でもない。でもこのパーセンテージは本来はウチがもっとやれるということも示している。平均の法則で行けば、これから良い結果が出てくる。重要な局面でも打ち出す。そうすれば目指す方向に行ける」と前向きに話す。

 データサイト「ファングラフス」に「クラッチ」という項目がある。重大な局面で普段よりどれくらい良い結果を残せているか、あるいはどれくらい結果が悪くなっているかを比較するもの。自分自身との比較なので、例えば3割打者が重要な局面で3割を打ったとしても、クラッチヒッターとはみなされない。チーム別に見ると、今季重要な局面で普段以上の打撃ができているのはオリオールズで3・42。いつもの力を出せないのはカブスで-6・26。30球団中29位のツインズは-3・25だから、カブスは30球団の中で飛びぬけて数字が悪い。

 選手別で見ると+2は非常に良い、+1は素晴らしい、+0・5は平均以上、0は平均、-0・5は平均以下、-1・0は不十分、-2・0はとてもひどいで、ほとんどの選手は+1から-1の間に分布される。今季ここまでトップはガーディアンズのホセ・ラミレスで1・58。マーリンズのホルヘ・ソレアは1・35で2位、レッズのジェイク・フレーリーは1・19で3位、メッツのフランシスコ・リンドアは1・09で4位、レンジャーズのヨナ・ハイムは1・05で5位だ。ちなみに大谷翔平は21年は1・08と重要な局面で結果を出した。今季はここまで-0・19だ。

 カブスの選手はマイナスの選手が多い。パトリック・ウイズダムは-0・85。おやっと思うのは鈴木誠也の数字で、走者を得点圏に置いた状況では125wRC+と平均より25%多く得点を生み出しているのに、「クラッチ」は-0・76である。接戦の試合終盤に打てていないということか?ほかには、コディ・ベリンジャーは-0・74、クリストファー・モレルは-0・71、マイルズ・マストロブオニは-0・46だ。

 「ファングラフス」では「クラッチ」はこれまでの結果を表したもので、この先を予測できるものではないと断っている。ただ長らく野球界で信じられてきたようにチャンスに強い打者と弱い打者に分けられるとすれば、カブスにとって黄信号だ。とはいえこの数字が悪いからといって意識しすぎるのはもっと良くない。選手が考え過ぎて、必要以上に自身にプレッシャーをかけてしまうからだ。スワンソンの言うように平均の法則で見た方がいい。カブスは2日(日本時間3日)のパドレス戦は2-1で勝った。2得点は序盤に挙げたもので、終盤に効果的な追加点とはいかなかったが、リリーフ投手が踏ん張った。1点差の試合は5勝11敗となっている。

続きを表示

「始球式」特集記事

「落合博満」特集記事

2023年6月3日のニュース