横浜・杉山遥希を元審判員記者がジャッジ!審判殺し15・24センチ「グレーゾーン」攻め

[ 2023年6月3日 04:30 ]

ブルペンで気合の入った表情で投球練習する横浜・杉山(撮影・木村 揚輔)
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 1月にスタートした「突撃!スポニチアンパイア」。11年から6年間、NPB審判員を務めた柳内遼平記者(32)が、フル装備で選手たちの成長や、魅力をジャッジする。第5回は横浜の最速145キロ左腕・杉山遥希投手(3年)。レッドソックスなどで日米通算170勝を挙げた松坂大輔氏(42=本紙評論家)らがつけた名門の背番号1を背負う逸材に、突撃した。

 NPB審判員時代、メッツ・千賀やエンゼルス・大谷ら“一流の球道”を目に焼き付けた。当時は「プロで成功するためには突き抜けた力が必要」と肌で感じた。今でも、1軍で飯を食えるかどうか、とアマチュア投手を観察する。本音を言えば、杉山は大学で腕を磨くべきと思っていたが、そんな記者の思いは圧倒的投球に打ち砕かれた。

 松坂大輔、涌井秀章ら、横高のエースが腕を磨いてきた伝統のブルペン。独特の緊張感があった。1メートル81、79キロの左腕は一切、表情を緩めることなく「グラウンドは戦場」とばかりに眼光は鋭かった。「プレー!」のコールで投球開始。ノーワインドアップから投げ込む杉山。力量を判断するには10球で十分だ。11球目からは「プロに行け、杉山!」と朝令暮改の思いを込めて「ストラーイク!」と叫んだ。

 高校生の成長スピードは恐ろしい。1年夏から甲子園に出場し今春、急成長を遂げていた。精密なコントロールを持ちながらも130キロ台前半から中盤という物足りない直球。従来はそんなイメージだったが、一冬越えて最速は145キロに。練習試合では毎試合のように140キロ台をマーク。マスク越しに「速い」より「強い」と感じた。秘密は回転数にある。4月に選出された侍ジャパン高校日本代表候補の強化合宿では、直球の回転数が2500回転を計測。プロの投手の平均は2200~2300回転と言われており、トップクラスの数値だ。「中指で切る」という独特のリリースが一級品の球質を生み出す。

 制球力が売りの杉山の特筆すべき投球は、右打者の内角を突くクロスファイアだ。左腕がプロで活躍するための必須能力。ソフトバンク、巨人で活躍した杉内俊哉ら一流左腕は、右打者に対して球審から見てベースの左角と右打席のライン間のゾーンを積極的に突いた。球道によってストライクかボールか変化する15・24センチの「グレーゾーン」。どちらをコールしても投手か打者が不服を示す「審判殺し」のゾーンでもある。そこに直球とスライダーを自在に投げ分ける。まるで社会人野球の投手だ。

 この夏に向けた課題は捕手との呼吸だ。「絶対にバットに当たらない」という剛球はないが、要求通りに投げられる高い制球力を備えており、配球の重要度が増す。データ班を備える強豪校は簡単に配球パターンを見抜いてくるため、捕手の椎木卿五(2年)、村田浩明監督とミーティングを重ね、変幻自在の配球を磨き抜く。

 高校生左腕では、今秋のドラフト1位候補に挙がる大阪桐蔭・前田悠伍、享栄(愛知)・東松快征に次ぐ存在であるのは間違いない。野球ノートと帽子のひさしの裏には「未完成」と記し、さらなる成長を誓う。投球を終えてマウンドを降りたエースと握手。「こんな大きい声の審判は初めてです」。この日、初めて杉山が笑った。(柳内 遼平)

 ≪「超豊作年」東洋大細野らドラフト1位候補≫「超豊作年」といわれる今年のドラフト。左腕も逸材がそろう。1位候補には最速155キロの東洋大・細野晴希投手(4年)、高校No・1の大阪桐蔭・前田悠伍投手(3年)らが挙がる。その他にも、仙台育英の最速147キロ・仁田陽翔投手(3年)、BC栃木の最速154キロの入江空投手(24)らが注目されている。

 ◇杉山 遥希(すぎやま・はるき)2005年(平17)9月23日生まれ、東京都江戸川区出身の17歳。篠崎アトムズに所属した小6時にジャイアンツジュニアに選出。中学は城南ボーイズでプレーし、横浜では1年春からベンチ入りし、1年夏、2年夏の甲子園に背番号1で出場。憧れの選手は楽天・松井裕。1メートル81、79キロ。左投げ左打ち。

 ▽横浜 1942年(昭17)創立の神奈川県の私立校。男子校から20年に共学化。野球部は98年に松坂大輔(本紙評論家)らを擁して甲子園春夏連覇を果たすなど通算36度出場し60勝、5度の優勝を誇る名門。筒香嘉智(レンジャーズ3A)ら数多くのプロ野球選手を輩出。歌手で「ゆず」の北川悠仁らがOB。

 ≪昔思い出す「品評会」で絶賛の嵐≫【取材後記】基本的に4人1組のクルーで試合を担当するNPB審判員。試合後、球場の審判室に戻ると投手の「品評会」が行われる。「あの千賀ってピッチャー、なんで3桁の背番号つけとんねん。余裕で1軍やろ」。「もうあの投手はアカンな。直球がタレるようになったで」。「又吉、エグいな。めちゃくちゃ直球がホップしてんで」。試合で使用したスパイクを手入れしながら遠慮なしの感想を言い合った。関西弁の理由は私が関西所属の審判員だったからである。

 今回の取材では2人のカメラマンとともに突撃。取材後のタクシーの中では昔を思い出す「品評会」が始まった。「想像以上」。「凄かった」。「もっと騒がれるべき」など絶賛の嵐。お世辞なしで杉山君は凄いんです。 (アマチュア野球担当・柳内 遼平)

 ◇柳内 遼平(やなぎうち・りょうへい)1990年(平2)9月20日生まれ、福岡県福津市出身の32歳。光陵(福岡)では外野手としてプレー。四国IL審判員を経て11~16年にNPB審判員。2軍戦では毎年100試合以上に出場、1軍初出場は15年9月28日のオリックス―楽天戦(京セラドーム)。16年限りで退職し、公務員を経て20年スポニチ入社。同年途中からアマチュア野球担当。

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