藤浪の“未来予想色紙” 10年前に冗談半分に書いた「夢」が現実に 本紙記者が明かす秘話

[ 2023年1月15日 07:00 ]

1年目を終えた13年11月に藤浪が馴染みの高知の店で“ポスティングシステム”と記した色紙

 大リーグ・アスレチックスへの入団が決まった藤浪晋太郎投手(28)が、10年前に書いた1枚の色紙がある。高知県香南市にある割烹(かっぽう)料理店で、当時は冗談交じりに掲げていたメジャー挑戦の夢。紆余(うよ)曲折、9年の時を経てその色紙は昨秋、本人によって“上書き”された。長年、取材を続ける阪神担当・遠藤礼記者が秘話を明かした。

 昨年11月中旬、藤浪は大阪から愛車を走らせて高知県へ向かった。同県安芸市では岡田新監督のもと、秋季キャンプのまっただ中。トレーニングの合間を縫って、どうしても顔を出したい場所があった。

 「大将、女将さん、お久しぶりです!」。大きな背中を曲げて青いのれんをくぐると、なつかしい顔が目に入ってきた。今からさかのぼること10年前。1年目の秋季キャンプで大阪桐蔭の先輩・岩田に誘われて初めて訪れた「寿司割烹 藤(ふじ)」。以来、秋に高知へやってきた際は必ず足を運んで、同僚たちと新鮮な高知の魚介類や季節の鍋料理に舌鼓を打った。「まだ何も決まっていないんですけど、もしポスティングがうまくいってアメリカに行くことが決まれば、次はいつ来られるか分からないので。最後に絶対にここに来たかったんですよね。藤でご飯を食べたいなと」

 店内には“背番号19の9年”が染みこんでいる。ここを訪れるのは秋季キャンプの時期のため、必然的にシーズン後。梅野と掘りごたつのテーブルで向かい合って1年の反省会をした日もあれば、備え付けのテレビ画面に映る侍ジャパン・大谷の躍動を見つめ「大谷すごいな…」と複雑な気持ちになった夜もあった。数年前、酔った浜地に「おい、藤浪」と初めて呼び捨てにされたのもここだった。

 大将が握った寿司を出すカウンター横に1枚の色紙が飾られている。初来店した1年目の13年11月に本人のサインとともに“ポスティングシステム”と記していた。「これは岩田さんに“晋太郎、書いとけ”と言われてネタのつもりで書いただけなんですけどね…。まだ1年目終わったばっかりでしたから。まさか10年(近く)たって、こんなことになるとは思ってなかった(笑い)。なつかしいですよね」。それを見た女将さんが「1枚書いて」とリクエストすると、その夢を上書きするように、黒のマジックで力強く書き込んで見せた。「藤より米国へ行って参ります」――。

 帰り際、大将からは“せんべつ”として「これで外国人とも仲良くなれる」と高知のお座敷遊びで日本酒を酌み交わせる「べく杯」の道具一式を手渡された。女将さんからは「藤浪くん、頑張ってよ!」と激励された。「また、ここに来た時に良い報告ができるように頑張ってきます!」。藤浪にとって第2の原点が「藤」だったのかもしれない。夢を語り、本音を吐き出し、また上を向くことができた場所。メジャー挑戦へ、いろんなものを持ち帰った夜になった。

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