ドラマを生んだ元ヤクルト・津川力審判員の「名ジャッジ」 元NPB審判員記者が検証

[ 2022年10月28日 16:59 ]

SMBC日本シリーズ2022第5戦   オリックス6―4ヤクルト ( 2022年10月27日    京セラD )

津川力審判員
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 「SMBC日本シリーズ2022」は27日の第5戦でオリックスが逆転サヨナラでヤクルトを破り、2勝2敗1分けの五分に戻した。1点差を追い付いた9回、なお2死一塁から吉田がチーム初本塁打だった5回に続く2発目を右翼席へ打ち込んだ。劣勢を土壇場でひっくり返し、9年ぶりに第7戦までもつれ込むことが決まった。 

 多くの野球ファンがシビれた吉田のサヨナラアーチ。11年から16年までNPB審判員を務めた記者は2つ前のプレーで下された「ファインジャッジ」にシビれた。
 
 1点を追う9回1死二塁で、オリックス・西野が投手強襲ヒット。投手・マクガフは1度はじいたボールを一塁に送球するも、悪送球となり二塁走者の安達が生還した。そこで二塁を狙おうとした西野と一塁手が衝突。走塁を妨げられた西野は一塁に帰塁し、これにオリックス・中嶋監督は「走塁妨害ではないか」と一塁塁審の津川力審判員に抗議した。

 (1)適用された規則、(2)実際の判定、(3)判定の正誤、(4)津川力という男、の4点から「ジャッジ」を振り返りたい。

(1)適用された規則 ※抜粋して表記 
【公認野球規則 定義51 走塁妨害】
野手がボールを持たないときか、あるいはボールを処理する行為をしていないときに、走者の走塁を妨げる行為】

【同6.01h(2)】 
走塁を妨げられた走者に対してプレイが行われていなかった場合には、すべてのプレイが終了するまで試合は続けられる。審判員はプレイが終了した後に、必要とあれば、その判断で走塁妨害によって受けた走者の不利益を取り除くように適宜な処置をとる

(2)実際の判定
二塁を狙った打者走者の西野と一塁手が衝突した瞬間、津川一塁塁審は妨害が起こった箇所を指刺して「オブストラクション(走塁妨害)」と宣告。その上で衝突があった直後、カバーに入っていた右翼手が悪送球を捕球したことを確認した。これにより、前述の規則を適用して「妨害がなかったとしても二塁には進塁できなかった」と判断して、走者を一塁に留めた。

(3)判定の正誤
打者走者と一塁手の接触、カバーに入った右翼手の動きを映していた右翼方向からの映像を確認すると、津川審判員の判定は正しかったことが分かる。悪送球のカバーに来ていた右翼手はすぐにボールに追いついていたことから、打者走者が二塁に進塁できた可能性は低い。津川審判員は送球が外野に逸れてからもすぐに目を切らずに、打者走者と一塁手の接触を確認。バックステップを踏みながら右翼手のカバーを確認した動きはまさに「シリーズアンパイア」にふさわしいもの。妨害や他のプレーが同時に発生する事象に関しては他の審判員と協議することが多いが、1人でプレーの全てを見切ることができた素晴らしいアンパイアリングだった。

(4)津川力という男
日本シリーズという晴れ舞台での「ファインジャッジ」。大舞台での強さは筋金入りだ。91年夏の甲子園。明徳義塾を率いる馬淵史郎監督の甲子園初采配。開幕日の第3試合だった市岐阜商戦で、津川内野手は明徳義塾の「4番・遊撃」で出場し、初回に左越え3ラン、5回も左翼越えソロをマーク。大会1号、2号を同一選手が記録するのは今夏の甲子園に出場した鶴岡東の土屋奏人内野手(3年)まで31年も現れなかった記録だ。津川氏は同年のドラフト4位で入団したヤクルトで8年プレーした後、NPB審判員として活躍。聖地で躍動した当時を「甲子園はみんなの憧れの場所。あの2本は自分を成長させてくれました」と振り返った。

 もし、津川審判員が判断を誤り、西野を二塁に進塁させていたらどうなっただろう。次打者の中川は空振り三振に倒れ、2死二塁で迎えた吉田は申告敬遠された可能性が高いだろう。吉田の一振りで生まれたドラマ。一瞬を正しく「ジャッジ」した津川審判員は間違いなく立役者だった。(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

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