【上水研一朗の目】一二三 豪快さと緻密さ、繊細さ磨き進化

[ 2020年12月14日 05:30 ]

柔道 東京五輪男子66キロ級代表決定戦   〇阿部一二三 優勢 延長24分 丸山城志郎● ( 2020年12月13日    東京・講道館 )

柔道男子66キロ級五輪代表決定戦 丸山城志郎(下)に優勢勝ちする阿部一二三
Photo By 代表撮影

 阿部が勢いを持っていた序盤、組み手を工夫しながら丸山が巻き返した中盤、そして決着と、2人の4年間を想起させるような流れの試合だった。阿部の勝因を3つのポイントに分けて分析したい。

 (1)防御 丸山の釣り手となる左手を阿部は最後まで徹底して上から抑え、仕事をさせなかった。加えて光ったのは、低い姿勢だ。巴投げなど、潜り込まれての捨て身技でポイントを奪われた過去もあり、研究の成果が出たといえる。

 (2)攻撃 決着こそ大内刈りだったが、この日最も丸山を苦しめたのは小内刈りと足払いだ。右組みの阿部が右足で丸山の右足を内側から刈るのが小内刈り。左組みの丸山にとっての右足は軸足で、攻められると思い切って前に出られず、技も繰り出しにくくなる。以前は右足で相手左足を内側から刈る大内と背負い投げが攻撃パターンだったが、新たな攻撃の残像が生きた。

 (3)流れ 巴投げが出た延長6分すぎ、組み手で圧力をかけた同15分すぎは、丸山ペース。直後の時間帯に、阿部は出血によるタイムを宣言している。丸山にとっては不要な間で、阿部にとっては頭を切り替える重要な時間となった。

 強じんな体幹で相手を引っこ抜くような阿部の柔道は、豪快だったが、それだけでは勝てない世界を教えたのが丸山だった。「自分の柔道」を貫くだけでなく「相手の柔道」をどう分析して防ぐか。阿部は豪快さに緻密さ、繊細さをプラスする必要に迫られ、進化したとみている。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

続きを表示

2020年12月14日のニュース