「どうする家康」脚本・古沢良太氏“天命を知る”50歳の境地「やっぱりエンタメ」が軸 大河執筆中に節目

[ 2023年12月17日 05:00 ]

「どうする家康」脚本・古沢良太氏インタビュー

「どうする家康」で大河ドラマの脚本に初挑戦した古沢良太氏
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 嵐の松本潤(40)が主演を務めるNHK大河ドラマ「どうする家康」(日曜後8・00)は17日、15分拡大で最終回(第48回)が放送される。大河初挑戦となった脚本家・古沢良太氏(50)に約2年にわたった執筆・作劇の舞台裏、節目の50歳を迎えた心境や今後の活動の展望を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 古沢氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ62作目。弱小国・三河の主は、いかにして戦国の世を生き抜き、天下統一を成し遂げたのか。江戸幕府初代将軍を単独主役にした大河は1983年「徳川家康」以来、実に40年ぶり。令和版にアップデートした新たな家康像を描く。

 11月上旬に行われたインタビュー。脱稿の心境を問われると、古沢氏は「やっとゆっくりできるようになって、少しずつ人間らしい生活を取り戻しつつ(笑)、まだ心のどこかで(脚本の)直しのオーダーに備えている自分がいます。書き終えた実感はそこまでありません」と率直に語った。

 「まず、こんなにも長いドラマを書かせていただける機会はめったにないので、脚本家冥利に尽きます。民放の連続ドラマだと10話前後で、この辺を掘ったら面白くなる、とスピンオフ的な話をたくさん思いついても、盛り込めずに終わってしまいますが、今回はこれまで以上にイメージを膨らませて、存分に書くことができました。1人の人間の人生を48話もかけて描けるというのは、脚本家にとっては本当にありがたい場だと思います」

 想像力(創造力)の一例は「金ヶ崎の退き口」の伝承“小豆袋”を阿月(伊東蒼)として擬人化した第14回「金ヶ崎でどうする!」(4月16日)。お市が袋の両端を縛った小豆を兄・織田信長に送り“浅井・朝倉による挟み撃ち”“袋の鼠”のピンチを伝えたというエピソードだが「後世の創作と言われていて、当時の僕みたいな人が考えたんでしょうから、現代の僕がもっと後世の創作、新しい逸話を作っていいんじゃないかな、と思って。歴史の裏側に想像力を膨らませて書いている時は、非常に楽しかったですね」と述懐した。

 少年時代は漫画家志望。脚本執筆の際、映像をイメージしてスケッチブックに絵を描く。

 「今回は時間がなかったので、これまでに比べると少しだけですけど。脚本に影響?単なる逃避じゃないですかね(笑)。絵を描く暇があったら、文字を書けって話です(笑)」としながらも、スマートフォンに保存された中から「大坂城の茶々」を披露してくれた。11月19日には、自身のSNSに「本多忠勝(平八郎)と榊原康政(小平太)」の絵を公開した。

 脱稿までのラスト1カ月、NHK局内の会議室にこもった。

 「絵は会議室のホワイトボードに描いたりしていました。広くて使いやすい部屋で、すぐに人にも相談できますしね。決してNHKさんに缶詰めにされたわけじゃなく(笑)、自主的にそうしたんです。僕は歩きながら考えるタイプなんですけど、歩き回れる広さがあって。自分にはホテルより合っていたので、もっと早くから使わせていただいていればよかったと思います(笑)」

 2002年、デビュー目前の漫画家を主人公としたコメディー「アシ!」で第2回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞に輝き、脚本家デビュー。以後、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」「探偵はBARにいる」シリーズ、ドラマ「リーガル・ハイ」「コンフィデンスマンJP」シリーズなど数々のヒット作を生み出し、20年にわたって第一線を走り続ける。テレビ朝日「ゴンゾウ 伝説の刑事」で第27回向田邦子賞(08年度)、フジテレビ“月9”「デート~恋とはどんなものかしら~」で第24回橋田賞(15年度)を受賞した。

 近年は動画配信サブスクリプションや見逃し動画配信サービスが全盛となり、映画やドラマの視聴形態も変化。自分の好きな時間に好きな場所で、映像作品を楽しめる。各局、ドラマ枠が増加。一方、リアルタイムの世帯視聴率が第一の指標でもなくなった。

 デジタル技術「バーチャルプロダクション」を駆使した今作のように「撮影方法もどんどん進化していて、まず、実に面白い時代に脚本家をさせていただいているな、という幸せを感じます。そして、今まで以上に脚本というものが大事になってくる、大事にしないといけないと思っています。脚本作りにしっかり時間とお金をかけて、撮影はなるべく効率的に、という作り方がクオリティー的にも予算的にもいいはずなので、そういう方向に進んでいってほしいですね。その分、脚本家の仕事が重要になるので、より精進していきたいと思っています」とエネルギッシュ。

 今年8月には、節目の50歳を迎えた。稀代のストーリーテラーは、どこへ向かうのか。

 「色々な題材やジャンルに興味はありますけど、やっぱり50になって思ったのは、歳をとると、まるで文学のような重厚な人間ドラマとか、刺さる人にだけ深く刺さればいい、みたいな作品を書いてみたくなるんですが、そんな自分と常に闘っていて『違う、違う。そっちに行くな、おまえは』と。あらためて自分を戒めました(笑)。やっぱり僕は、ちゃんと大衆に向けてエンターテインメントを書いていこうと思っています」

 「五十にして天命を知る」とは、古代中国の思想家・孔子の言葉。尖った古沢作品も興味深いが、“エンタメが軸”は変わらない。大河執筆中に悟った“天命”の1つなのかもしれない。

 最終回は「神の君へ」。徳川VS豊臣の最終決戦「大坂夏の陣」(慶長20年、1615年)が描かれる。

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