【内田雅也の追球】ジョーカーとペイオフ なりふり構わず勝ちに行く、9月に見た虎の姿

[ 2022年9月13日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6―2中日 ( 2022年9月12日    甲子園 )

<神・中>初回1死一、二塁、大山は右前に同点適時打を放つ(撮影・大森 寛明)
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 重い試合展開だった。5回まで2時間以上を要した。先発の阪神・才木浩人は94球、中日・柳裕也は101球を投げていた。1回表裏に1点ずつ取り合った後、走者は出るが、つながらない。

 風がやみ、蒸し暑いこの夜の甲子園のように不快感が募る内容だった。

 雰囲気を変えたのが6回表、2番手で登板したカイル・ケラーである。快速球とカーブで4番からの中軸を3人で切った。よどんだ空気に新風を吹き込む快投だった。

 8月上旬からクローザーを務めていたが、前夜はリードの8回表に起用された。監督・矢野燿大は「臨機応変、状況に応じて使っていく」と話していた。クライマックスシリーズ(CS)進出に向けてラストスパート。形にこだわらず、なりふり構わず勝ちに行く。特にケラーは要所で救援する「ジョーカー」としての期待が見える。

 投手のリズムが打線に影響を与える。そんな好例だろう。ケラー快投直後の6回裏、原口文仁、佐藤輝明の連打と送りバント、四球で1死満塁。代打ジェフリー・マルテが三遊間を破る左前2点打で均衡を破った。フルカウントから柳のスライダーに泳ぎながら、食らいついた。

 この夜の阪神打線は3ボール―2ストライクのカウントが多く、のべ10人を数えた。結果は9打数2安打1四球。もう1本の安打は1回裏、大山悠輔右前同点打。内角速球に詰まりながら、右前に運んだ一打だった。

 フルカウントの平均打率は・200~・220あたりだが、今季の大山は・127、マルテは・182、チーム全体でも・194と苦手にしていた=成績は11日現在=。

 泳ぎ、詰まっても安打にした泥臭い2本の適時打は、格好はどうあれ結果だけが問われる9月に見合っている。

 フルカウントからの投球をアメリカで「ペイオフ・ピッチ」と呼ぶ。「清算の一投」といった意味だが、見事に結果を出した。残り10試合のシーズンもペイオフの時期。あと2つの借金を返し、CSをもぎ取りたい。

 試合後、引退する中日・福留孝介へ、花束贈呈で別れを惜しんだ。関係者エレベーターで一緒になったオーナー・藤原崇起が「福留さんの姿を見ておこう」とモニター画面に見入った。阪神ファンも盛んに手を振った。甲子園にさわやかな風が吹いた。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月13日のニュース