【内田雅也の追球】増える引き分けに対するプラス思考 3戦連続ドローの阪神

[ 2020年6月15日 07:00 ]

練習試合   阪神3―3オリックス ( 2020年6月14日    京セラ )

京セラドーム関係者室に掲げられている仰木彬氏のユニホーム
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 京セラドーム大阪の関係者室玄関に「OHGI 70」と縫い付けられたユニホームが掲げられている。仰木彬が最後に監督を務めた2005年、オリックス時代のものである。

 肺がんと闘いながら「グラウンドで死ねたら本望」と指揮を執り、シーズンを全う。同年12月15日、福岡市内の病院で息を引き取った。70歳。野球にかけた名将の壮絶な戦死だった。

 野球記者駆け出しの1986(昭和61)年、初めて担当した近鉄で仰木はヘッドコーチだった。試合後、勝敗にかかわらずシーズン全体を見通した冷静な分析を語った。

 ただ、シーズン終盤に引き分けると「うーん」と黙った。9月下旬、西武球場の階段を登りながら聞いたのを覚えている。「この引き分けがどういう意味を持つのか……うーん、分からんね」

 近鉄は優勝にあと一歩届かなかった。130試合中12試合あった引き分けが響いたのか。優勝した西武も13試合も引き分けがあった。勝てなかったのか、負けなかったのか。引き分けの意味は仰木でも分からなかった。

 開幕まで最後の練習試合となる14日、阪神は3―3で引き分けた。好投手・山本由伸の立ち上がりを攻めた3点は見事だった。阪神は開幕から15試合続けてビジターで戦う。先攻の利である1回表の速攻を目指したい。

 近本光司、ジェフリー・マルテの美技など、よく守った。残念なのは追加点をなかったことか。

 最後の3連戦は3日連続の引き分けだった。9回打ち切りだからだが、今季は本番でも延長は10回までのルールだ。引き分けは増えるだろう。

 あの86年当時のパ・リーグ試合方式は「3時間を超えて新しいイニングに入らない」という規定だった。それで約1割の引き分けがあった。阪神で過去最も引き分けが多かったのは2012年で144試合中、やはり約1割の14試合。当時は前年の東日本大震災に伴う節電対策から「3時間30分を経過して次のイニングに入らない」だった。

 今季のセ・リーグも恐らく約1割、120試合中12試合ほどの引き分けが出るのではないか。

 ならば、引き分けを大切にしたい。計算上、勝率には無関係。意識のうえで「負けなかった」と思える試合にしたい。

 監督・矢野燿大が愛読する精神科医・心理学者のアルフレッド・アドラーも見方を変えることの大切さを説いている。<同じ体験をしても、喜ぶ人もいれば悲しむ人もいる>という受け取り方の問題だ。<ライフスタイル(=性格)によって決まる>と、解説・小倉広の『アルフレッド・アドラー 人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)にあった。

 今年はどうやら、例年以上に、プラス思考が物を言うシーズンとなりそうだ。=敬称略=(編集委員)

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