最終回迎えた男女逆転「大奥」なぜ人気? 配信歴代最高&トレンド入りの大ヒット 注目集めた“ある理由”

[ 2023年3月15日 11:01 ]

ドラマ10「大奥」第10話(Season1最終回)。縁側に佇む徳川吉宗(冨永愛・左)と加納久通(貫地谷しほり)だったが…(C)NHK
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 “男女逆転の大奥”を描き、SNS上で話題を集めたNHKドラマ10「大奥」(火曜後10・00)は14日、第10話が放送され、「Season1」が完結した。インターネット上には、終了を惜しむ声や感謝の声が続出。「大奥ロス」が広がった。第1話放送後から、ツイッタートレンド入りし続けた話題作。初回(1月10日)の同時・見逃し配信サービス「NHKプラス」における視聴数は、これまで同サービスで配信された同局の連続テレビ小説・大河ドラマを除く全ドラマの中で歴代最高を記録した大ヒットとなった。原作漫画はこれまでに他局で3度、映像化されているが、4度目の映像化にしてなぜここまで大きな反響を呼んだのか。このドラマを企画した、岡本幸江プロデューサーの思いとは。

 <※以下、ネタバレ有>

 原作は漫画家・よしながふみ氏の同名人気作。3代将軍・徳川家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、男女が逆転した江戸パラレルワールドを描き、センセーションを巻き起こした。

 この原作は過去3度、映像化されている。2010年にTBSを中心として映画化され、続編として2012年10月に同局で「大奥~誕生 有功・家光篇」が連続ドラマ化。さらに同年12月に映画第2作「大奥~永遠~ 右衛門佐・綱吉篇」が公開されている。

 14日に放送された最終回の第10話は「八代将軍吉宗・水野祐之進編」。村瀬正資(石橋蓮司)の“謎の死”と同時に紛失していた没日録が、徳川吉宗(冨永愛)の手元に戻る。しかし、隠されていた衝撃の事実を知ることに。そして、将軍の座を長女・家重(三浦透子)に引き継ぎ、後世へと希望を託し…という展開。キャスト陣の熱演は「1クールで何度泣かせるんだ!1話の間で何度泣かせるんだ!マジで毎将軍のラスト大号泣してるんやが!」「完璧すぎた(泣いている)」と、視聴者の涙を誘った。

 岡本氏は、他局が映像化するよりも前にこの「大奥」の映像化を構想していた。だが、新設ドラマ枠での映像化を模索していた矢先にTBSでの映像化が決定。涙をのんだが、あれから10年以上がたち、原作漫画の完結を受けて自分の手での映像化を決意した。

 また、このタイミングでの映像化を決めたのは、新型コロナの影響もあった。企画を練り始めたのは、初めて緊急事態宣言が敷かれ、外出自粛が求められた2020年。「新型コロナの影響で、人々はみな非常に緊張感のある中で生活をしていた。そんな中、ドラマを見るときぐらいは日常の窮屈感みたいなものを忘れたい…というような気持ちがあった。ダイナミックで日常を忘れさせてくれるような大胆な構想のもので、でも、感動とか感情とかは絵空事じゃなく、ちゃんと共感できるもので…と考えたときに、浮かんだのが『大奥』でした」と回顧。「『大奥』は時代劇かつ、男女が逆転しているという、設定が物凄く大胆。しかし、実はそこに流れる感情は現代にも通じる非常に普遍的な物語で。その両方を兼ね備えているという意味で、私は今こそ、やっぱり『大奥』なんじゃないかと思いました」と、決め手を明かした。

 さらに「大奥」では、若い男子のみが罹患し、感染すればほぼ死に至る「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」がまん延した江戸時代が舞台。岡本氏は「10年前はフィクションの、ありえない病気なんだなと思っていましたが…絵空事じゃなかった」と、現代とのリンクに運命めいたものを感じていた。

 実際に、このドラマに現実の新型コロナを重ねて見る人も多い。感染者を過度に恐れ遠ざけようとする心も、ワクチンの重要性を説きながらもなかなか受け入れられない世間の反応なども、非常に酷似している。この物語には、感染症に関することのみならず、男女の運命、逆縁に不妊と、多くの課題が共通してそこにある。岡本氏は「時代劇という設定の一つのファンタジーの上に、『男女逆転』というもう一つのフィクション設定が乗っている、非常にフィクショナルな設定。しかし、今の日本社会や、日本だけじゃなく世界が抱えている問題や困難が、非常に面白く、魅力的な物語の中に描かれている。近代のわれわれに共通する問題や課題みたいなものが、凄くわかりやすく…現代の人が感じ取りやすく描かれている」と作品の魅力を熱弁。「なおかつ、人の心や気持ちなど、そういった時代を超えた普遍性みたいなものも、同時に感じさせてくれる。社会の課題や困難と、物語的な感動。両方が同時に魅力的に描かれているのが、よしながふみさんの凄い発明といいますか、凄いお力だと思っています」と原作に流れるメッセージに衝撃を受けた。

 現代を取り巻くさまざまな問題を、実力派キャストの演技にのせて「自分ごと」として捉えられること。解決策が見えない感染症との戦い。これら現実を襲う困難を、歴史ものかつ男女逆転の世界という“ありえない物語”の中に投影したことが、多くの視聴者の心をつかんだ。

 ネット上では「養生所の場面では医療従事者や介護従事者の苦労を。腑分けを願い出る小川笙船には最前線医師の苦悩を。進吉の申し出には薬品に携わる人々の必死の努力を。振り返ると、それぞれを現実のコロナ禍でもがいてくれている関係者と重ねてしまうな。改めてありがたい」「今の政治家に聞かせてやりたい名台詞がいっぱいだよ…」「赤面疱瘡という疫病が大きな題材となっていた大奥の最終話が、奇しくも令和の世では新型コロナウイルスに係るマスク着用の見直しが行われた翌日というのも何とも因縁めいてる」「赤面疱瘡との戦い、めちゃコロナとの戦いと酷似してる」「大奥、すごく良かった。コロナ禍だからか身に沁みた」という声が続出した。

 原作ファンからは「キャストが全部はまり役」とキャスティングを絶賛する声が多数上がったほか、原作を知らない層からも「ドラマがよすぎて思わず全巻ポチってしまった…」と相乗効果も生まれている。原作の大ファンだという岡本氏も「ストーリーとして面白いだけではなくて、どこかで“現在の日本はどうなのか”と感じさせる部分がある。翻って、私たちはどうなのかと常に問いかけられる」と思いを吐露。ストーリーや俳優陣の演技を「楽しむ」だけではなく、視聴者それぞれが自分の心で考える“動機”を与えたこと、それをネット上でつぶやき、共有し合うこと。それが高いレベルで行われたのが「大奥」という作品だった。

 いよいよ赤面疱瘡撲滅へ本格始動する「Season2」。「医療編」「幕末編」と銘打ち、今秋放送される。

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