【佐藤満の目】伊調の敗因は…姿勢高く右脚へのタックルかわせなかった

[ 2019年6月17日 08:30 ]

全日本選抜レスリング選手権最終日 女子57キロ級決勝、川井梨(右)にポイントを奪われる伊調(撮影・小海途 良幹)
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 伊調の敗因は、姿勢の高さにある。第2ピリオドに入り、足幅が狭まったことで、徐々に上体が起き上がった。こうなると(1)相手攻撃をしのぐ懐の深さが消える(2)相手をいなす手の動きも上からになり効果的でなくなる。実際、前に出している右脚へのタックルを第1ピリオドはつぶせたが、第2ピリオドではかわせず、足首を固められて回された。

 実はアジア選手権の敗因も姿勢の高さにあった。技術的には16年リオ五輪後もプラスはあると思うが、伊調本来の良さは、懐の深さを生かしたディフェンス力。これが確立されているからこそ、攻撃に専念できる。来月6日のプレーオフは、原点回帰できるかが焦点になるだろう。

 一方、川井梨もリオ五輪時ほどの攻撃力が影を潜めている印象だ。とはいえ、開き直ったように攻めた第2ピリオドは光るものがあった。今回の勝利で自信も得ただろう。こちらのプレーオフの焦点は、序盤から攻めに徹することができるかに尽きると思う。

 男子も熱戦続きだった。まずはフリー65キロ級。現役世界王者の乙黒拓が樋口にTフォール負けしたが、これは臨戦過程に問題があったと思う。乙黒拓はケガなどの影響で全日本選手権後ほとんど試合に出ていなかった。

 世界王者のタックルはもちろん研究される。しかし、試合に出ていれば警戒された中での攻撃を工夫することができる。この日は昨年までのタックルの入り方で、ことごとく樋口につぶされた。一方、リオ五輪銀メダリストの樋口は底力を見せたと思う。片足タックルでポイントを取りきる力は持っている。プレーオフでもこの戦い方に徹することになるだろう。

 また、グレコ60キロ級の文田―太田戦も見応えがあった。どちらもコーションで1度ずつパーテールポジション(相手が腹ばいになった状態で攻める)のチャンスがあったが、これをモノにしたのが文田。太田は体勢を入れ替えて攻めることができる、と考えたようだが、このコンマ数秒の判断ミスが命取りになった。

 東京五輪を約1年後に控え、特に気になったのは女子選手のレベルだ。例えば伊調と川井梨の試合。ともに16年の五輪女王だが、さらにレベルが上がったかと言われれば疑問符がつく。リオの決勝で見えていた通り、女子における日本の優位性はなくなりつつある。選手、関係者はそれを念頭に強化を進めて欲しい。(88年ソウル五輪フリー52キロ級金メダリスト、元日本男子強化委員長、専大教授)

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