「麒麟がくる」松永久秀&平蜘蛛 本能寺への導火線に火!脚本・池端俊策氏「すべてがつながった」大発見

[ 2021年1月11日 08:00 ]

大河ドラマ「麒麟がくる」第40話。松永久秀(吉田鋼太郎)から託された茶器「平蜘蛛」を受け取る明智光秀(長谷川博己)(C)NHK
Photo By 提供写真

 俳優の長谷川博己(43)が主演を務めるNHK大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜後8・00)は10日、第40話「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」が放送され、天下一の名物と謳われる茶器「平蜘蛛」が最大のクライマックス「本能寺の変」への伏線、キーアイテムとなる衝撃の展開。視聴者に驚きをもたらした。脚本を手掛ける池端俊策氏(75)も同日夜に更新された番組公式サイトのインタビューで「この回は、やがて光秀が本能寺へと向かうきっかけになる回だと思っています。本能寺への導火線に火がついた。そして、それを仕掛けたのは松永久秀なのです」と明言。戦国武将・松永久秀が主人公・明智光秀に託した平蜘蛛に込めた意味を明かした。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ59作目。第29作「太平記」(1991年)を手掛けた名手・池端のオリジナル脚本で、智将・明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生を描く。

 第40話は、大坂本願寺攻めの最前線から突如、松永(吉田鋼太郎)が逃亡を図り、織田方に衝撃を与える。光秀(長谷川)は今、離反する理由を松永に問いただす。松永は筒井順慶(駿河太郎)に大和の守護の座を与える信長(染谷将太)が許し難く、自分に大和を任すという本願寺側に付くと明言し…という展開。

 信長に反旗を翻した松永は天正5年(1577年)、大和・信貴山城に籠城。茶人としても知られたが、最期は平蜘蛛に火薬を詰め、日本初の爆死を遂げたとされる。

 名作ゲームになぞらえ、SNS上で「戦国のボンバーマン」と呼ばれ、爆死に期待が集まった松永だが、今回は爆死説を採らず。喉から手が出るほど平蜘蛛を欲しがった信長には「意地でも渡す気はない」と、伊呂波太夫(尾野真千子)を介し、松永は命の次に大切な茶器を光秀にを託した。それもそのはず。池端氏は平蜘蛛に2つのメッセージを込めた。

 松永が自害した後、坂本城。伊呂波太夫は松永から預かっていた平蜘蛛を光秀に渡し「松永様は仰せられました。『これほどの名物を持つ者は、持つだけの覚悟が要る』と。いかなる折も、誇りを失わぬ者、志高き者、心美しき者。『わしは、その覚悟をどこかに置き忘れてしもうた』と。十兵衛に、それを申し伝えてくれ」――。

 池端氏は「そこには2つのメッセージが込められています。『光秀、おまえが麒麟を呼ぶんだよ』、そのためには『信長とは縁を切りなさい』と…。伊呂波から平蜘蛛を受け取った時に、光秀はこれらのメッセージも同時に受け取ったのです。このエピソードを思いついた時、すべてがつながったと思いました。僕としては大発見だった」と打ち明けた。

 吉田鋼太郎(61)が熱演してきた松永久秀は、主に畿内を中心に勢力を広めた戦国武将。軍事政治両面において力を発揮し、したたかで荒々しい生き方が若き光秀に大きな影響を与えた。美濃の斎藤道三(本木雅弘)らと並ぶ「戦国三大梟雄(きょうゆう)」の1人。その残忍さ、非道さは後世に伝わる。

 松永は初回(昨年1月19日)から登場。鉄砲を探して旅に出た光秀が堺を訪れると、ひょんなことから三好長慶(山路和弘)の家臣・松永に気に入られる。

 池端氏は「これから2人は友だちになっていくんだろうなという予感くらいしかなかったけど、平蜘蛛のエピソードを思いついた瞬間に、光秀にとっての松永、その本当の意味が構築されました。光秀が心理的に変わっていく、信長や(足利)義昭(滝藤賢一)を支える2番手の立場から自身が自立する転換点を、平蜘蛛を使って松永が仕掛けたということです。そういうことができる人物が他にいるかというと、これが意外にいない。仕掛け人としては、松永は最高の人物だと思います」

 松永は自害したものの、吉田も「松永には自分のすべてをさらけ出せる明智光秀という心の友がいた」と今作における“救い”を見いだし「松永の最期の心情の中には『光秀ありがとう』という思いもどこかに含まれているんだということを、視聴者の方に汲み取っていただけると、うれしいなと思いますね」と2人の関係性を強調した。

 松永の死後、光秀は信長から安土城に呼び出され、平蜘蛛の在り処を問われるが、本当のことを言わず。信長は「十兵衛が初めて、わしにウソをついたぞ」と見抜く。背後には、羽柴秀吉(佐々木蔵之介)の偵察もあった。

 池端氏は、比叡山の焼き討ちや幕臣・三淵藤英(谷原章介)の切腹などを目の当たりにしてきた光秀が「信長に松永が一番大事にしたものを『はい、ここにあります』と、そう簡単に差し出すはずはない。松永も自身の死をもって光秀を試している。『信長にウソをつけよ、ここで平蜘蛛を渡したら、おまえは一生2番手のままで終わるぞ』と。光秀はその意を汲んでいるから、ウソをつく。きっと光秀と松永は気持ちが通じ合っていたのだと思います。2人は一番の友だち、親友だったのではないかと」。安土城の大広間で展開された光秀・信長の緊迫の心理戦を振り返った。

 第40話のラスト。伊呂波太夫から松永の“遺言”を受け取った光秀は丹波攻めの後、帝(坂東玉三郎)に拝謁したいと申し出る。「今の世を、信長様を帝がいかがご覧なのか、それをお尋ねしたい」。池端氏は「きっと帝は信長のことを評価していないはずだと光秀は感じていて、それを会って確かめたかった。そして、もし自分が政権を取ることになれば、帝がそれを許されるかどうかの心証を得たかったのではないか。歴史家にはいろいろな意見がありますが、正親町天皇は信長を快く思っていなかったと思っています。表面では褒めても、本心は違っていたのではないか。でなければ、信長が献上した(天下第一の名香と謳われる香木)蘭奢待(らんじゃたい)を、わざわざ敵対する毛利にあげるわけがない。そこに真理があると思います」と光秀の台詞に込めた意味を解説した。

 残り4話。最終盤について、池端氏は「第41回から第44回の最終話まで、これまでの戦国ドラマとは違う視点で時代を見るという醍醐味が凝縮されています。そして物語は、本能寺に向かって一気に加速していきます」と予告。「光秀の視点で描くと、本能寺の変はどのように映るのか?どのような意味を構築できるのか?信長の視点とは違う、歴史的な視点とも違う本能寺が見えてくるはずです。そこを、楽しんでいただければと思います」と呼び掛けた。

 インターネット上には「平蜘蛛と爆死しない代わりに、とんでもない爆弾を織田家中に投下して逝ったので、やはり今回は実質、松永久秀の爆死回」「爆死シーンの代わりに光秀の心に爆弾を宿す脚本だったか。これは恐れ入った」「松永久秀の仕掛けた平蜘蛛という矜持の爆弾が炸裂して、十兵衛と信長の関係に修復不可能な亀裂を入れさせていった。凄ぇな」「久秀が平蜘蛛と爆死するんじゃなく、平蜘蛛が爆弾だからタイトルが『松永久秀の平蜘蛛』。平蜘蛛が主役。そして十兵衛のところへ来た。恐ろしい」「信長があれほどまでに欲しがっている平蜘蛛が自分の手の内にある。この危険な優越感を十兵衛の出世欲として描いているのは面白い」などと脚本を絶賛する声が相次いだ。

 【平蜘蛛(ひらぐも)】松永が所有し、天下一の名物と謳われる茶器。殊の外、信長が欲しがった。正式名称は「古天明平蜘蛛(こてんみょうひらぐも)」。低く平らな形状が、蜘蛛がはいつくばっている形に見えることが名前の由来とされる。当時の武将にとって、茶の湯は欠かせない教養の一つ。名物茶器を所有することが権力者かつ文化人というアピールになり、持っていない者は権力者としても文化的とはみなされなかった。特に信長には「天下の名物は天下人の元にあるべきだと」いう考えがあり、降伏する武将が名物茶器を持っていれば、命の代償として献上させていたとも言われる(番組公式サイトから)。

続きを表示

2021年1月11日のニュース