中止の夏に映画「甲子園」“異例ヒット”横浜&岩手で好稼働!横浜隼人・水谷監督と花巻東・佐々木監督の絆

[ 2020年9月4日 11:00 ]

“異例のヒット”となり、全国に広がっている映画「甲子園:フィールド・オブ・ドリーム」(C)2019 Cineric Creative/NHK/NHK Enterprises
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 2018年夏の甲子園、第100回全国高校野球選手権大会を目指す球児たちを追い掛けたドキュメンタリー映画「甲子園:フィールド・オブ・ドリームス」が8月21日に封切られ“異例のヒット”となっている。今年6月に米最大級のスポーツ専門チャンネル「ESPN」で全米放送され、大きな話題に。新型コロナウイルスの影響により夏の甲子園102回大会が中止になった異例の年に日本公開が決まるという“逆輸入”作品で、映画が追い掛ける横浜隼人高校と花巻東高校の地元・神奈川と岩手を中心に好稼働。高校野球ファンの声に応え、上映劇場の拡大も決定した。

 映画「甲子園:フィールド・オブ・ドリームス」は、昨年3月30日に放送されたNHK EテレのETV特集「HOME 我が愛しの甲子園」(60分)を長編化した完全版(94分)。米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平投手(26)やマリナーズの菊池雄星投手(29)を輩出した花巻東の佐々木洋監督と、佐々木監督が師と仰ぐ激戦区の雄・横浜隼人の水谷哲也監督との知られざる絆を中心に、両監督や選手らを1年間、長期取材。全国を回り、撮影した素材は約300時間に上る。

 師と弟子がそれぞれの思いを胸に挑んだ夏の甲子園100回大会。横浜隼人は南神奈川大会2回戦敗退(5―9横浜商)、花巻東は初戦敗退(2―4下関国際)。その1年をアメリカの撮影チームが記録した。昭和から平成、そして未来へ。時代とともに変えるべきもの、変えてはならないもの。純粋に青春のすべてをぶつける高校球児と、教育の最前線に立つ指導者の葛藤、そして喜びとは…。

 NHK、NHKエンタープライズ、米Cineric Creative社による国際共同制作。横浜隼人の球児3人を追い、夏の甲子園100回大会中の8月に放送された「遥かなる甲子園」に続く高校野球ドキュメンタリーの第2弾として好評を博した。

 監督は、昨年のNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」各回の最後に付き、人物インタビューも行う例年にない異色の大河ドラマ紀行「いだてん紀行」を手掛けた気鋭の女性映像作家・山崎エマ氏(31)。

 エマ監督はニューヨークを拠点に活躍。もともと「高校野球という日本独自の文化を世界に紹介したい」と海外向けの企画だったが、昨年11月に米最高峰のドキュメンタリー映画祭「DOC NYC」でワールドプレミア上映。今年6月に米最大級のスポーツ専門チャンネル「ESPN」で全米放送されると、日本人メジャーリーガーたちの“原点”を描いた作品として、また高校野球を“日本社会の縮図”と位置付け、変わりゆく時代の空気をも切り取るエマ監督の視点と手腕が、野球大国の米国においても大きな反響を呼んだ。

 配給協力の日活によると、横浜隼人の地元・横浜市にある「T・ジョイ横浜」は公開1週目の土日(8月22~23日)に全回満席で、1週目の平日も土日と遜色のない興行。通常は数字が下がる2週目に入っても、満席の回もあり、勢いが落ちない興行となっている。

 花巻東の地元・花巻市のお隣・北上市にある「イオンシネマ北上」も、出足こそ横浜には及ばなかったが、地元メディアの報道もあり、平日に入ってから徐々に客足に伸び。2週目の土日(8月29~30日)は同館前週比180%に近い約2倍の動員数となった。

 神奈川と岩手の好調を受け、高校野球界のレジェンドの1人、蔦文也監督が率いた池田高校がある徳島県でも、9月18日からイオンシネマ徳島で公開されることが決定。徳島は横浜隼人・水谷監督の出身地。蔦監督は水谷監督が師と仰ぐ人物で、劇中にも登場している。他に9月4日から福岡・福岡中洲大洋、9月18日から名古屋・伏見ミリオン座、9月25日から島根のT・ジョイ出雲で上映されることも決まり、全国に広がっている。

 今作の情報が解禁されたのは、公開約2週間前の8月6日。通常は遅くとも3~4カ月前という映画界にあって、急きょ決定した上映にもかかわらず、好稼働。ドキュメンタリー映画は興行的に難しい面もあるが、日活は「全国高校野球選手権大会がない夏の公開になりましたが、甲子園の魅力を存分に味わえる作品に足を運んでいただけているのだと思います」と手応え。

 エマ監督も「高校野球の取材を通して大切だと教わった『人と人とのつながり』を、この映画のおかげで改めて感じています。急に決まった公開にもかかわらず、徐々に広がっているのは、やはり描かれている高校野球の世界が魅力的で、情熱あふれる青春の姿に飢えている方々にとって、元気の源になっているのではないかと思います」と実感している。

 日本人の母と英国人の父を持ち、19歳の時に渡米し、ニューヨーク大学映画制作学部に進んだエマ監督は「海外生活を経験した私が監督し、海外クルーと撮影したからこそ独特な視点を持つこの作品が、高校野球を知り尽くしている日本の方々にも新鮮なものとして捉えていただいているようで、とてもうれしいです」と喜び。「そして『次世代を教育していくには今、何が大事なのか考えさせられた』といったような、野球の世界を飛び越えての感想も耳にし、この2020年だからこそ響く部分もあるのかなと感じています」と語っている。

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