コロナ、豪雪…日本ハム新球場建設までの困難 大林組・竹中所長「世界がまだ見ぬボールパークを造ると」

[ 2022年6月14日 12:40 ]

新球場建設への熱い思いを語る大林組・竹中所長
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 来年3月に開業する日本ハムの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」は、大手ゼネコン・大林組と米設計事務所・HKSが14社8グループによるコンペを勝ち抜いて18年11月に設計施工を受注した。20年5月に着工し、5月末時点で進ちょく状況は予定通りの81%に到達。ここまでどのような苦労があったのか、工事事務所所長を務める大林組の竹中秀文さん(59)に聞いた。(取材・構成 清藤 駿太)

 臨場感抜群のフィールドに近い客席、開閉式屋根、天然芝、自然光を取り入れる最大高さ70メートルのガラス壁、球場内のどこからでも観戦可能な360度回遊型コンコース――。さまざまな工夫が施された新球場の設計図に初めて目を通した当時の心境を、竹中所長はこう振り返る。

 「大林組に入って36年。これまでさまざまな建物を見てきたが、これは唯一無二の建築物だと。世界で初めて手掛けるものに自分が責任者として関われる。大林組に入って良かったな、と思いましたね」

 与えられた工期は20年5月から今年12月までの32カ月。北海道での工事は冬に休工することもあるが、23年の開業までに迎える2度の厳冬期も中断することはできない。工事には北海道ならではの対応が必要だったため、着工1年前から竹中所長を含む先発隊4人が道内に住み始め、札幌支店への情報収集からスタートした。

 「雪国では雪の中で建築物を造るノウハウがある。いち早く勉強する必要があった。仕事だけではなく、所員を全国から連れてくるので、冬の生活をする上でどういうことが大事なのかを知っておくべきだなと」

 しかし、工事は困難の連続だった。昨冬は記録的な豪雪。昼間に解けた雪は夜には氷となり、コンクリートの躯体(くたい)造りの障壁となった。そこで札幌支店から得た知識を生かし、全面に仮設の屋根を建ててジェットヒーターで温めながら作業を進めてきた。

 「北広島駅から工事事務所、さらに建設現場へ行くまでも雪が降りしきる。もう吹雪の中で人が雪をかき分けながら、山を登っていく感覚。物凄く強靱(きょうじん)な精神力が必要で、所員はもう逃げ出したい気持ちだったと思う」

 それでも、全国各地から集まった所員が乗り越えられたのは大きな「目標」があったから。

 「ファイターズさんの『世界がまだ見ぬボールパーク』を造るんだと。この冬を何回か越えたら、ここで開閉式屋根の天然芝球場でプロ野球が開幕するんだと。想像もつかないけれど、おそらく凄いことが起こる…という期待感が、環境が厳しくても厳しくても、みんなの気持ちを奮い立たせたんだと思います」

 着工と同時期に新型コロナウイルスが流行。平時なら懇親会などでコミュニケーションを図ってきたが、会合なんてもっての外。現場は1000人規模で作業するため、集団感染が発生すれば工期も遅れる恐れがあったが、所員や作業員らの意識の高さでクラスターは一度も起きなかった。

 「若い人たちにはこたえたと思います。ただ、皆さんの志が高く工事も支障なく進むことができた。本当に感謝せねばならない。今になり、短時間だけでも(懇親会を)やりましょうか、とマスクを取るじゃないですか。そうしたら“え、そんな顔していたの?”って。北海道に来た時からマスクをしているから(苦笑い)」

 今月9日には巨大屋根を全て閉じる段階に至り、フィールド内の本格的な工事がスタート。10月には天然芝が敷き詰められる。開業まで残り約9カ月。

 「球場とは歴史を刻むところ。単なるオフィスビルとかではなく、これから築いていくものを造る感覚だった。今まで、自分が建物造りをしてきて感じたことがなかった。後は選手が、球団が球場を造っていく」

 ◇竹中 秀文(たけなか・ひでふみ)1962年(昭37)10月5日、大阪府出身の59歳。大阪・清風南海高、北大を経て87年4月に大林組入社。毎日新聞大阪本社ビルや、大阪駅改良プロジェクト工事の大屋根工事を担当。阪神淡路大震災の震災復旧工事にも携わった。家族は妻と1女。

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