DeNA・今永が札幌D初ノーノー達成を自己解析 快挙の裏にドームの「湿度」と「広さ」生かした直球勝負

[ 2022年6月14日 05:30 ]

7日の日本ハム戦でノーヒットノーランを達成し、ガッツポーズを見せる今永(撮影・高橋茂夫)
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 交流戦期間だった7日の日本ハム戦でプロ野球史上85人目(通算96度目)、球団では52年ぶりとなる無安打無得点試合を達成したDeNA・今永昇太投手(28)がスポニチ本紙のインタビューに応じた。人をひきつける独特な言動で「投げる哲学者」とも称されるエース左腕が、札幌ドームで初めて達成された偉業の理由、そして投手が快挙を連発するなど今季の「投高打低」の傾向についても持論を展開した。(取材・構成 大木 穂高)

 ――20年10月に左肩を手術した影響で昨年は5勝止まりで、完全復活を目指していた今春は左前腕の肉離れを発症。苦しい時間を経て快挙を達成した。

 「1月の自主トレの最後の方でいい感覚が生まれ、それが今までとは全く違う投げ方だった。それでキャンプでも出力が出過ぎて故障。でも、その後も感触がいい同じ投げ方で故障しないようにケアもしてきた。全く違う感覚が生まれている」

 ――7日は2ストライク後の直球勝負率が64・1%。その前の5月31日のオリックス戦は同48・7%と比べて直球勝負が激増した。

 「理由は2つ。一つは屋外と屋内で直球の質が変わる。もう一つは広い球場の利点。札幌はファウルゾーンも広く、直球で押してファウルフライもある(7日は2邪飛)」

 ――直球の質が変わるとは?

 「自分の感覚でドームは湿度が高い。球に触った感覚がしっとりする。だから、球をあまり“ギュッ”と握らなくても、ソフトな感じでリリースできる。(結果、握力が落ちずに)あの日は直球の威力も落ちなかったし、浮いたチェンジアップも打者のタイミングが外れて打ち取れた。運が良かった場面もいくつかあります」

 ――運が良かった場面とは?

 「(9回の)最後の野村選手の飛球(右飛)は横浜(スタジアム)で風があれば入っていたかも。でも札幌だからそういう投球(直球勝負)をした。そもそも僕は、直球以外、自信のある球がない。ないものねだりをしても仕方がない。本当はノーヒットノーランができる投手ではないからこそ、運もあった」

 ――今季はまだ6月でロッテ・佐々木朗の完全試合を含め、ソフトバンク・東浜と無安打無得点試合の達成者が3人もおり、中日の大野雄も10回2死まで完全投球の快投を演じた(※1)。セ・リーグの全体の防御率も昨季の3・60から3・28に向上するなど投高打低の傾向だが。

 「佐々木投手の160キロ超の直球にフォーク。東浜投手の独特なツーシームにカットボール。いい投手がいい投球したら“そりゃ打てないよ”となる。中日の大野投手だって直球と同じ軌道のスプリットがある。オリックスの山本投手がアウトローに155キロを投げれば、日本ハムの松本(剛)選手(パの首位打者)もそう簡単には打てない。打者にそこまでの変化は感じない。今年は、いい投手がいい投球をしているのでは」

 ――自身の投球でも7日の試合は高め直球のストライク率が大幅に増加(※2)。9回1死で今川から見逃し三振を奪ったのも外角高めのギリギリのコースの直球だった。「高め勝負」も投高打低の一因と言えないか。

 「打者によって、必ずしもアウトコース低め、変化球を低めにとか、それが正解ではなくなってきているのは確か。もちろん、打者から一番遠いアウトローは、一番、打ち損じる可能性は高いだろうけど、一発を打たれたら打者の勝ちなので」

 ――トレーニング方法や情報量も増えている。

 「日本は中6日の長い期間で、100球ぐらいの投球。明確なゴール地点が決まっているので、その中で投手も自分の出力が分かってきた。そのことも(投高打低に)関係しているのではないか」

 ※1 ロッテ・佐々木朗は4月10日のオリックス戦で完全試合を達成。続く同17日の日本ハム戦でも、8回まで一人の走者も許さなかった。中日・大野雄は5月6日の阪神戦で9回まで完全投球も0―0で延長戦へ。10回2死で初安打を許したが、120球を投げ完封。さらにソフトバンク・東浜が同11日の西武戦で97球でノーヒットノーランを達成するなど、今永を含め投手の快挙達成が続いている。

 ※2 今永は6月7日の日本ハム戦では「ストライクゾーン内に投じた直球」全41球のうち41.5%となる17球を高めに配球。同じ条件で今季全体を見ると高めは20.2%、真ん中は66.3%、低めは13.5%。同日は高めの直球が通常の20%以上も多いことが分かる。

 ▽今永の無安打無得点試合 7日に札幌ドームで行われた日本ハム戦で序盤から球威ある直球と切れのある変化球で凡打の山を築き、9回までに117球を投じて9三振も奪って達成。許した走者は2回2死から四球を与えた清宮のみの「準完全」だった。球団では52年ぶり4人目の快挙で北海道での達成はプロ野球史上初となったが、達成の瞬間は一切、笑顔を見せることなく、冷静にマウンドの土をならす姿も話題となった。

 ◇今永 昇太(いまなが・しょうた)1993年(平5)9月1日生まれ、北九州市出身の28歳。小学校時代ではソフトボール、中学時代は軟式野球部に所属。北筑を経て駒大に進学。3年秋に7勝を挙げて優勝の立役者になりMVP獲得。同年の神宮大会優勝に貢献した。15年ドラフト1位でDeNA入団。1メートル78、83キロ。左投げ左打ち。

 【取材後記】今回の取材の中で今永に「目指す究極の完投とは?」という質問もぶつけた。すると巨人のエースを尊敬する左腕は「菅野投手のような“なぞる”投球。見ている人が想像した通りの投球をする。それが究極」と言った。今永の視点では菅野の投球は「漢字ドリルの点線を鉛筆でなぞるのと同様」だという。どの球種も一級品で投げるコースや配球も基本に忠実。「だから(投球を)間違いようがない」と力を込める。16年の入団当時と現在の自身の直球の質の違いを「ボウリングで言ったら投げている(球の)ポンド数(重さ)が上がった」と独特の表現で説明する。人をひきつける行動と言葉。究極の完投を実現させる日も近いのではないか。(DeNA担当・大木 穂高)

 《次回登板はリーグ戦再開初戦の阪神戦濃厚》今永の次回登板は無安打無得点試合の快挙を達成した7日からは中9日で、リーグ戦再開の初戦となる17日の阪神戦(甲子園)が濃厚だ。現在チームは4位の阪神とゲーム差なしの5位。三浦監督は今永について「交流戦明けも、オールスター明けも(先発)ローテーションの中心として回ってもらう投手」と期待しており、重要な3連戦の初戦のマウンドを託す可能性は十分にある。

 《西武・辻監督は速球高めのストライク判定傾向指摘》西武・辻監督が今季の「投高打低」について「今年の野球自体が高めをストライクと取られている。他のチームも高めに投げていて、メジャーもそうなっている」と持論を語った。特に直球など速い球で高めを取られやすいと分析。先発・与座ら継投で打者27人の「準完全試合」を達成した8日の巨人戦でも、そのような傾向があったといい「体に近くて腕が伸びないから打つのが難しい。だから(打者の)打率が上がらない」と説明した。

 《18試合制交流戦で零封29度は最多》12日まで行われた交流戦で零封29度は18試合制となった15年以降では最多で、全体でも24試合制だった11年の38度、36試合制だった05年の33度と06年の30度に次ぐ4番目の多さ。全試合に対する割合では今回が26・9%(全108試合)で、11年の26・4%(全144試合)、05年の15・3%(全216試合)、06年の13・9%(同)を上回って最も高い。

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