【内田雅也の追球】辛い競争を楽しむ

[ 2022年2月9日 08:00 ]

<練習試合 神・日>初回 無死一塁 見逃し三振に倒れる木浪(撮影・成瀬 徹)
Photo By スポニチ

 「歩いては海を渡れない」は、ドミニカ共和国やベネズエラなど中米の若い野球選手の合言葉である。当欄でも何度か取り上げてきた。

 「歩く」はウオークで四球を意味する。「海」はカリブ海。海を渡り、大リーグ入りしたいなら、四球を選んでいてはダメだ。スカウトにアピールするために打って出ろ、という警句である。

 新庄剛志がこの言葉を聞いたのは阪神を退団し、大リーグに挑んだ2001年2月のことだ。メッツのキャンプ地、フロリダ州ポートセントルーシーでのオープン戦期間中、ドミニカ共和国出身で広島にも在籍したティモ・ペレスや、キューバから亡命したホルヘ・トカら若い選手に聞いた。

 もちろん、選球眼も四球を奪う力も大切な能力である。ただし、キャンプ序盤、いまは違う。結果は二の次。1軍メンバーをえり分けるなか、選手は首脳陣にアピールしなくてはならない。

 その点、8日の練習試合、阪神の選手たちはいまひとつだった。若手中心の打線で喫した三振8個のうち、実に6個が見逃しだったのだ。たとえば、木浪聖也は1回裏無死一塁、2ボール―2ストライクから甘い直球を、江越大賀や小野寺暖は外角直球を見逃した。

 広かった判定もあろう。相手の日本ハムは6三振中、見逃しは2個。それ以上に万波中正や佐藤龍世らが3ボール後に見せた、打ちにいく姿勢、スイングの強さを思う。明らかに積極的で攻撃的だった。結果ではない。問題は姿勢なのだ。

 ぼんやりした書き方だが、率直に日本ハムの選手たちの方がはつらつとしていた。すがすがしく感じた。この印象はどこから来るのだろう。

 本気の競争が生む積極性ではないか。監督、いや「ビッグボス」の姿勢である。競争に挑んだ、あの01年2月の姿勢だ。<辛いのは当然じゃないか。この辛さを楽しんじゃうくらいでなければ、話にならないぞ>と著書『ドリーミングベイビー』(光文社)にある。

 当時の通訳、現日本ハム・チーム統括本部副本部長の岩本賢一が「新庄さん、メッツ1年目のような、すがすがしい顔、いい顔をしています」という。心は選手の顔つきにもあらわれていた。

 先の書は印象的な言葉で締めくくられている。<楽しめば、きっと成功する>。阪神監督・矢野燿大の姿勢に通じる。いま一度、原点を思い返したい。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2022年2月9日のニュース