中日17投手による人生をかけたストライクテスト――その裏で感じたチームの一体感

[ 2022年2月5日 08:00 ]

<中日春季キャンプ>ストライクテストで投げ込む高橋宏(撮影・椎名 航)
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 長い間、野球を見てきたが、これほど緊張感が漂うブルペン取材は初めてだった。中日の北谷キャンプで2月3日に行われた落合ヘッド兼投手コーチ発案の17投手によるストライクテスト。紅白戦の登板をかけ、10球×3セットで直球のストライク数を競った。

 参加しているのは昨年リリーフでブレークした藤嶋を除けば、1、2軍のボーダーラインと育成の選手。2軍から呼ばれた者や、初めて1軍のキャンプに来た者もいた。まさに一発逆転の大勝負だ。

 参加者の気迫もさることながら、舞台演出が素晴らしかった。テストは5人の組が3つと2人の組が1つの4班で行われ、各班は指定された時間の約20分前に入場。10分前になると今度は審判が一斉に入場する。周りには多くの報道陣と首脳陣の目。大塚投手コーチの「1セット目いきます」のかけ声を合図に一斉に投球が始まった。不思議だが、開始前に全ての班で雨脚が強くなった。

 大げさでなく、この日の30球には、その人の人生が詰まっていた。5球連続ボールでスタートしながら、大きく深呼吸して何とか立て直し、関門を突破した佐藤。10年ドラフト1位・高橋宏は序盤苦しみながらも、第2セット途中から15球連続ストライクでフィニッシュし、スター性を感じさせた。2軍から参加の松田は臆することなく20ストライクを投げアピールの大チャンスを得た。

 落合ヘッド兼投手コーチの狙いは技術の向上や競争意識を高めることだけではなく、投手それぞれの性格や特徴を知ることだった。

 「実際に見たかったのは球数より、1セット目に数字の悪い子、3セット目に数字の悪い子。1セット目に数字の悪い子は“1セット目いきます”と言ったときに、自分で勝手にプレッシャーをかけて、自分で崩れていく。3セット目に悪い子は再現性のスタミナがない。ストライクを何球投げたより、その子の特徴が把握できたのは僕の中での収穫」

 このテストで私が気付いたのは周りの人間の思いやりだ。室内でのウオーミングアップの時に、投手キャプテンでエースの大野雄は勝負に臨む後輩たちにスペースを譲り、ネットの外で優しい視線を送った。ブルペン捕手は1球でも多くストライクにしてやろうと、試合さながらのフレーミングで審判にアピールした。投手は投げ終わると、自分でマウンドを整備するが、次の組の前にはスタッフがもう一度、整備して万全の状態で迎え入れた。首脳陣も気が散らないようにそっと挑戦を見守った。

 こちらまで苦しくなるほど張り詰めた空気だったが、同時にワクワクするような楽しさを感じたのは“こいつらを育ててやろう”というチームの一体感があったからだ。17人の投手は合否に関係なく、特別な時間を過ごしたことだろう。素晴らしい取り組みだった。(記者コラム 中澤 智晴)

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