【ポストシーズンの奇襲采配】95年ヤクルト“肩痛演技”のブロスと“助演”オマリーでイチのオリ討ち

[ 2021年11月9日 20:10 ]

95年日本シリーズ優勝時の(左から)オマリー、ミューレン、ブロスの助っ人トリオと古田
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 あす10日開幕のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ(S)ではファーストS同様、2018年からセパともに予告先発を導入している。日本シリーズでは出場2チームの合意があった時のみ行われるが、2018年から3年連続で「予告先発」となっている。かつてはプレーオフ、CS、日本シリーズでは予告なしの先発投手の読み合いが重要な戦いのひとつでもあった。成功あり、失敗あり。あっと驚く「奇襲先発・采配」の歴史をひもとくと…。

【82年日本ハム】チームメートをも欺いた骨折20勝腕・工藤幹夫

 西武(前期V)―日本ハム(後期V)のプレーオフ。大方の予想で日本ハムの第1戦(10月9日)先発は左腕の高橋一三だったがフタを開けてみれば工藤幹夫。レギュラーシーズン20勝を挙げながら9月10日に自宅で体操中にドアにぶつけて右手小指を骨折。全治4週間と診断され、プレーオフ登板は絶望的といわれた。大沢啓二監督は、密かに工藤に投球練習を行わせ、投手コーチらにかん口令。チームメートの前でも工藤に包帯を巻かせていた。奇襲先発が功を奏し西武打線は工藤の前に沈黙。7回途中まで無失点に抑えたが、救援陣が西武打線に打ち込まれ0―6で敗れた。

【90年巨人】20勝大エース斎藤雅樹よりも絶好調・槙原寛己も…

 88勝を挙げセ・リーグ連覇を達成。西武との日本シリーズは盟主対決と注目された。第1戦、大方の先発予想は2年連続20勝の大エース斎藤雅樹。ところが東京ドームにアナウンスされた先発投手の名前は「槙原寛己」だった。藤田元司監督が考えた打倒西武の秘策。後半戦、槙原は4連続完投勝利を含む7勝2敗と安定感抜群。一方の斎藤は9月22日の広島戦以降、3試合で16失点と明らかに調子を落としていた。槙原は3年前の87年、西武との日本シリーズ第4戦に先発し3安打の完封勝利。90年も主力だった石毛宏典、辻発彦、秋山幸二、清原和博、伊東勤の87年の対戦成績は16打数2安打。完全に抑え込んでいた。だが藤田監督の思惑は初回に粉砕された。槙原が2死一、三塁から87年には不在だったオレステス・デストラーデにカウント3―0から痛恨の3ラン被弾。巨人は西武に屈辱の4連敗。奇襲は完全に失敗に終わった。

【95年ヤクルト】肩が痛いブロスの名演!オマリーが助演男優賞

 オリックス・イチローにとって初の日本シリーズ。ヤクルトの先発投手が注目された。候補はこの年アリゾナ・ユマキャンプでテスト入団し14勝を挙げた新外国人のテリー・ブロスとプロ4年目の左腕・石井一久。石井は初の2桁となる13勝を挙げ好調だった。シリーズ5日前の10月16日、練習でブロスが右肩痛を訴えた。以降、投球練習を行っていないように見えた。ところがシリーズ第1戦で発表された先発はブロス。8回2失点で勝利投手となった試合後、ブロスは「芝居なんて慣れてなかったから隠し通すのが大変だった」と大笑い。実は僚友トーマス・オマリーから「もう投げられないって、やれよ」と“肩痛演技”をうながされたという。お騒がせ右腕は第5戦でも8回1失点で2勝目。優秀選手に選ばれた。

【2002年西武】本命・西口外し後半戦未勝利の松坂に託したが…

 94年以来、21世紀初のGL決戦。プロ4年目の松坂大輔にとって初の日本シリーズだった。入団から3年連続最多勝を獲得した松坂だったが5月に右肘痛を発症。8月4日に1軍復帰を果たしたが4試合に登板し再び離脱。10月14日に1軍登板も4回2失点で降板している。第1戦先発の本命は西口文也。7年連続2桁、この年も15勝。第1戦が行われる東京ドームで6年近く白星から遠ざかっている点が気になったが…。結局、伊原春樹監督の選択は「松坂」だった。相手は松井秀喜、清原和博、高橋由伸、阿部慎之助が名を連ねる最強巨人。後半戦未勝利の投手の第1戦先発は異例のケースだったが、3回4失点でKOされた。松坂は第4戦にも2番手で登板したが2回4失点。チームは巨人に4連敗で敗れ去った。

【2007年中日】“俺流マジック”!右の山井ではなく左の小笠原

 落合博満監督4年目の中日は、レギュラーシーズンは優勝した巨人から1.5差の2位。初のクライマックスシリーズ第1ステージは第1戦=川上憲伸、第2戦=中田賢一先発で2連勝。巨人との第2ステージに駒を進めた。第1戦先発最有力だったのは山井大介。8月21日巨人戦で2年ぶり勝利を挙げると、9月は4勝1敗でセ月間MVP。誰もが打倒巨人の先陣を切ると思っていた。ところがフタを開けてみると中日の先発は左腕の小笠原孝。この年6勝も巨人からの白星はなし。8月から5連敗中で4日前の第2ステージ阪神戦第2戦では救援登板していた。山井を想定し7人の左打者をスタメン起用した巨人打線は沈黙。小笠原は5回1失点で会心の勝利を挙げた。出鼻をくじかれた巨人は中日に圧倒され3連敗。日本シリーズ進出を逃した。後に山井は右肩に痛みがあったことが判明したが、14日後、日本ハムとの日本シリーズ第5戦に先発。8回まで完全試合の快投を演じている。

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