オリ・吉田正がこだわる「1」 主軸が期待される東京五輪の先に、「令和初三冠王」の夢を見たい

[ 2021年6月5日 05:30 ]

5月28日のヤクルト戦、初回無死一塁から先制の2点本塁打を放ち生還したオリックス・吉田正(撮影・後藤正志)
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 決め手となった一発だったかもしれない。侍ジャパンの中軸候補として期待が懸かるオリックス・吉田正。稲葉監督が視察した5月28日のヤクルト戦で、初回の「1」打席目の「1」球目、バンデンハークの149キロを右翼席へ放り込んだ決勝12号2ランのことだ。

 「1球目から無駄にせず。それまでの準備というか、やっぱり甘い球を見逃してしまうと、どんどんゾーンは厳しくなるので。状況を判断して、その中でファーストストライクをイメージして打ち返せるように。そこがズレると、2球目、3球目…となってしまう」

 キーワードは「1」だ。1打席目の1スイング目で仕留めたことに意味がある。実は稲葉監督は過去、「1球目、1歩目、どんな場面でも“1”という数字を大事にしてほしい」と訴えていた。振り返れば、吉田正は侍ジャパン初選出された19年3月のメキシコとの親善試合でも、第1打席の1スイング目で満塁弾。吉田正が求めるスタイルは、くしくも侍指揮官の描く理想像と重なるものだった。

 コロナ禍で逆風が吹き荒れる東京五輪。事態が収束し国内外から理解を得られる形で開催されるなら、出場は悲願だ。青学大4年で大学日本代表として出場した15年ユニバーシアード大会で4番を務め優勝に貢献。その時から抱き続けた思いがある。過去に「ずっとトップチームで、という思いがあった。(東京五輪は)自国開催で年齢的にも良い時期。出るからには主軸。チームが金メダルを獲れる選手になるというのが絶対条件で、その一つのピースになりたい」と語ってくれた。

 今季は6月4日時点で打率・348(1位)、12本塁打(3位)、40打点(2位)。開幕前に、「やるからには一番を狙う。本塁打を狙って打率が下がるというようなことは嫌。松中さんのようなイメージですね。どこかを捨てるのではなく全ての数字を高くする。」と描いた青写真通り。まだシーズンは前半戦と分かってはいるが、平成唯一の三冠王・松中信彦氏以来となる「令和初の三冠王」をつい期待したくなる。

 打撃だけでなく、走守を含めた全ての面でレベルアップを図ってきた。それは、“もっと野球がうまくなりたい”という、純粋で強烈な向上心から。「アウトになると分かっても、一塁まで全力疾走した積み重ねが内野安打につながるとか、併殺を避けるとか、いろんな意味があったと思う。そういう安打1本の差が大事だと思うので」。吉田正の口から「努力」という言葉を聞いたことはないが、豪快なフルスイングの土台には、「1つ1つ」の地道な積み重ねがある。オリックスで、侍ジャパンで、その努力はきっと実を結ぶはずだ。(記者コラム・湯澤 涼)

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2021年6月5日のニュース