イチロー氏の指導哲学――データ野球主流な時代に「考える力」身につけさせる

[ 2020年12月5日 05:30 ]

イチロー氏 智弁和歌山を指導

智弁和歌山との練習でおどけてみせるイチロー氏
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 イチローさんの指導哲学について、大リーグの選手時代から取材を続ける笹田幸嗣通信員(57)は「考える力」をテーマに挙げた。

 イチローさんの指導哲学は、野球というスポーツが持つ一番の素晴らしさである「考える力」を身につけさせるために何をするか――。決して「第2のイチロー」を育てることではない。

 インストラクターの肩書を持つマリナーズでは、打撃投手も務める。首脳陣からは「気持ちよく打たせてくれ」と言われたが、「全力ではないけど、ただ投げるだけじゃね…」と真剣に投げた。あくまでも実戦を想定した練習が重要であり、「練習のための練習」は無意味と考える。

 野球とは一球一球で変化する状況を瞬時に把握し、考える「知恵比べ」。その上で技術力で結果につなげていく。これがイチローさんの考える野球の素晴らしさであり、それがメジャーでの成功の根底にある。マリナーズに移籍した01年。当時のメジャーは「ステロイド時代」とも呼ばれ、本塁打全盛だった。そんな中、日本で培った「野球」で全米を席巻した。わざと詰まらせて左翼前に落とす技術も「美」とした。

 昨今のメジャーは、スイングスピード、打球角度など「トラックマン」をはじめとするハイテク機器が導き出す数値が選手を評価する。その流れは日本のプロ野球にも浸透し、アマチュア球界にも広がりつつある。だからこそ、高校生には野球の本質を忘れてほしくないとの思いで、今回の指導に臨んだのだろう。

 上手下手は二の次。大事なことは最善の結果を導くためには何が必要なのか。そのためにはどんな鍛錬が必要なのか。考える力を身につけることが未来の自分のためになる。そんな思いでイチローさんはグラウンドに立っていたに違いない。(大リーグ担当・笹田幸嗣通信員)

 ▽イチローさんの学生野球資格回復 19年夏に事務所を通じて日本野球機構(NPB)、日本学生野球協会に資格回復研修受講の希望が伝えられた。同年12月13日から3日間、都内で行われた研修会を受講。修了証が交付され、今年2月にはプロ野球経験者が高校、大学の指導をする「学生野球資格回復制度」の認定を受けた。学生野球の指導には、プロ球団の退団が必要だが、功績の大きさや、アマ選手の獲得に携わる立場でないことから、特例的に退団前の回復を認められた。

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