天国から笑い声が聞こえた――550人参列の「お別れ会」で見えた日本高野連・竹中事務局長の人柄

[ 2019年12月2日 16:30 ]

竹中雅彦前事務局長お別れの会で、あいさつする中村尚登日本高野連理事(撮影・成瀬 徹)
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 【内田雅也の広角追球】空も紅葉も笑っていたように見えた。大阪・江戸堀、日本高校野球連盟(高野連)のある中沢佐伯記念野球会館の中庭は都会の中にあって自然を感じられる場所だ。ビルの谷間にのぞく空は青く、木々の葉は赤く黄色く色づいていた。

 「やっぱり、この天気よ」と日本高野連理事・中村尚登さん(65)は言った。1日にあった前事務局長・竹中雅彦さん「お別れ会」。竹中さんは在任中の10月16日午後6時10分、間質性肺炎のため、入院先の日本赤十字病院和歌山医療センターで亡くなっていた。64歳だった。

 「空も木も笑っているやろ。明日(2日)は雨らしいぞ。自分の日はしっかりと晴れる。これが人徳なんやろうなあ」

 中村さんと竹中さんは和歌山県立桐蔭高校の同級生だった。中村さんは硬式野球部のエース、竹中さんは軟式野球部の内野手。1972(昭和47)年の3年生最後の夏、桐蔭は和歌山大会を勝ち抜いて優勝。当時あった奈良代表との紀和大会で天理に敗れ、甲子園出場はかなわなかった。

 「大会中、いつも応援に来てくれていた。応援団員じゃないが応援団長みたいな存在だった。ふだんから“どうや?”と気に掛けてくれた」。ふだんから同じグラウンドで練習していた。軟式野球部は左翼後方の隅に本塁がある。投手のランニングをする中村さんはよく顔を合わせた。

 笑っていた中村さんだが、会が始まり「友人代表」であいさつに立つと涙が止まらなかった。

 笑いを誘うネタも涙声だった。県和歌山商教諭時代、同校内にあった和歌山県高野連事務局に「竹中先生」を探し、訪ねてきた女生徒がいた。中村さんは「職員室で小錦に似た人がその先生よ。小錦を知らないなら、森公美子だな」と伝えると帰ってきて「全く森公美子でした」と爆笑した。地理の授業も生徒たちによると「マクド(マクドナルド)の話ばかりで授業にならなかった」。

 参列者の話も竹中さんらしく、冗談や笑いあふれるエピソードばかりだった。冒頭であいさつした日本高野連・八田英二会長でさえ、12月18日に予定していた慰労会の会場を「あなたが高野連“夜の迎賓館”と呼んでいた北京料理の徐園(大阪・肥後橋)で行う予約を入れておりました」と少し笑いを誘った。

 竹中さんが星林(和歌山)野球部長時代の部員だった元侍ジャパン・日本代表監督の小久保裕紀さん(48)は高校3年時、地理の授業が「昨日、小久保がホームランを打ってなあ」から始まったと笑わせた。「当時の監督(谷口健次さん)が相当厳しい方だったので、竹中部長は心のオアシスと言いますか、心がハッピーになれました」

 阪神・谷本修球団本部長は9月13日のプロ・アマ協議会での会ったのが最後だった。「何かあれば真っ先に駆けつけてくれる。リーダーの姿を見せていただいた」と話した後、「思い出ですか……よく飲みにいったことですね」と笑った。

 受付の帳簿で見ると、参列者は北海道から沖縄まで、全国から実に550人を数えた。皆、竹中さんの思い出には笑顔があり、「周囲を明るくさせる方だった」と声をそろえた。

 もちろん、誰もが竹中さんへの感謝の思いを抱いていた。日本ハム・栗山英樹監督は評論家時代の2009―11年の3年間、『熱闘甲子園』のメインキャスターを務めた。プロ出身者が夏の甲子園大会を取材するのはプロ・アマの壁にあって異例だった。「竹中さんの理解、協力があって務めることができた。あの宝物の3年間があって、今もこうして監督でいられる。恩義ははかりしれない」

 中村さんは2011年3月、竹中さんが定年を前に教職を辞し、日本高野連に入局する前夜、2人で酒を酌み交わした。「お互い、体を大事にしてがんばろう」と交わした会話が今はむなしい。

 「(友人代表で)話している最中、この辺(頭の上)から、タケちゃんの声が聞こえてきたんよ。天国で笑っていた。それから、あれ言え、これ言えって……それに“しっかりお礼、言うといてな”……と。だから……」最後は参列の多くの人びとに深々と頭を下げた。(編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 幾度か書いてきたが、桐蔭高在学中の1980(昭和55)年、竹中先生が社会科教諭として着任してきた。当時は講師だった。「冗談好きで理解がある」と評判はすぐに広まった。われら野球部員も先生のご自宅にお邪魔した。今も手帳に「12月23日・竹中先生慰労会」とメモが残る。ベテラン記者有志の会で先生も楽しみにしてくれていた。祭壇の笑顔の写真に合掌し、涙がこぼれた。

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