巨人・菅野智之 際立つピンチでの勝負強さ

[ 2017年12月16日 11:20 ]

9月26日のヤクルト戦で17勝目を挙げた巨人・菅野
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 【宮入徹の記録の風景】冷静沈着な投球は相変わらずだった。巨人の菅野智之投手(28)は今季17勝5敗、防御率1・59の好成績をマーク。最優秀防御率、最多勝利の2冠に輝いた。特に内容面で目立ったのが走者を背負っての投球だ。二塁以上の得点圏に置いた場面では、127人の打者と対戦して109打数17安打で被打率は・156。今季セの規定投球回到達者12人の中で被打率2割未満は菅野しかいない。

 規定投球回数は巨人に入団した13年以降、5年連続でクリアしている。この間の得点圏でのシーズン被打率とリーグ順位を出すと13年・250(7位)、14年・197(3位)、15年・190(1位)、16年・203(1位)、17年・156(1位)。15年から3年連続リーグ1位とピンチを切り抜ける投球術は群を抜いている。

 優れた投手でも窮地で好投を続けることは難しい。実際、過去60シーズンで規定投球回に達して2年連続被打率1位は69、70年村山実(阪神)、72、73年佐伯和司(広島)、89、90年斎藤雅樹(巨人)、09、10年チェン(中日)、09、10年ダルビッシュ有(日本ハム)とわずか5人。3年連続は菅野が初めてになった。

 もっとも、菅野の今季の走者得点圏での数字を見ると、過剰にギアを上げた形跡は見当たらない。走者得点圏では127人に対し奪った三振は17・3%に当たる22。走者なしだと448人で118奪三振(26・3%)、走者一塁は108人で31奪三振(28・7%)だから奪三振はむしろ抑えめ。クールな投球でピンチをしのいだ。

 今季菅野はリーグ18位タイの10本塁打を許したが、走者なしで6本、走者一塁が4本で走者得点圏では1本も打たれなかった。過去60シーズンの巨人投手で走者得点圏での被打率が1位で被本塁打が0は61年伊藤芳明、02年上原浩治に次いで3人目。細心な投球ぶりがこうしたデータからも読み取れる。

 歴史をさかのぼると、得点圏被打率の凄い数字がある。70年に阪神の村山実が記録した・065がそれ。この年の村山は156イニングを投げリーグ1位の防御率0・98をマーク。50年の2リーグ制以降では唯一防御率1点未満を達成している。この年の村山は走者なしでは・180、走者一塁が・165だから得点圏では1割も被打率を下げたことになる。村山は70年を含め得点圏被打率1位が5度。入団1年目の59年には・092と新人離れした度胸満点の投球で一躍チームのエース格にのし上がっている。

 パ・リーグでは過去60シーズンで得点圏被打率1割未満は1人もいない。最も低く抑えたのは65年三浦清弘(南海)の・130。次いで71年山田久志(阪急)の・136が続く。山田はこの年46試合に登板。22勝6敗、防御率2・37で最優秀防御率のタイトルを獲得し、チームのリーグ優勝に大きく貢献した。

 だが、同年に巨人と戦った日本シリーズでは1勝1敗のタイで迎えた第3戦で悲劇に見舞われる。この試合に先発した山田は1―0リードで迎えた9回裏2死一、三塁の場面で王貞治に逆転サヨナラ3ランを浴びた。皮肉にも公式戦では無類の強さを発揮した走者得点圏の場面で痛恨の被弾。阪急はこの敗戦から3連敗を喫し球団初の日本一を逃した。(敬称略、専門委員)

 ◆宮入 徹(みやいり・とおる)1958年、東京都生まれ。同志社大卒。スポニチ入社以来、プロ野球記録担当一筋。94年から15年まで記録課長。本社制定の最優秀バッテリー賞の選考委員会には、第1回から27回連続で資料説明役として出席。

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