【内田雅也の追球】意識が無意識に変わるまで 「日日是好日」のドリルでこそ技術は確立される

[ 2022年11月11日 08:00 ]

<阪神安芸キャンプ>筒井コーチ(左端)が早出の小野寺(中央)、豊田(右)と守備練習する(撮影・岸 良祐)
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 キラキラした南国の朝日のなか、阪神外野守備走塁コーチ・筒井壮が「さあ、いこうか」と外野に歩んだ。安芸市営球場、朝9時前だった。

 秋季キャンプ中、毎朝行っている早出特守である。この日は小野寺暖と豊田寛だった。広い球場に3人だけがいた。

 右翼の位置で筒井が手投げで飛球を投げる。選手は背走して捕球する。右向き左向きと体を入れ替える「切り返し」もあれば、「回転」もある。捕球時の「ジャンプ」もある。目測を誤った時に粘って捕る練習もあった。「マツダのデーゲーム」とあえて逆光でまぶしいなか、グラブで太陽光線をさえぎる練習も行った。「ハマスタ(横浜スタジアム)の照明も左中間はこんな感じだぞ」と若手に1軍の戦場をイメージさせていた。

 最後に本塁付近からノックも打ったが、基本的には手投げだった。大リーグのキャンプで「ドリル」と呼ばれる基本動作の繰り返しである。これを毎日、外野手相手に行っている。選手は入れ替わるが、筒井は毎日である。地味で、根気と情熱が見える作業である。

 練習中、筒井は「言葉がけ」を行っていた。時にほめ、時に励ましている。叱りはしない。「そうや。技術は身を助けるぞ」「そうそう。意識が無意識に変わるまで」

 そうなのだ。考えてやっているうちは技術ではない。無意識に体が動けば、本物である。

 映画『日日是好日(にちにちこれこうじつ)』で茶道の武田先生(樹木希林)が大学生の典子(黒木華)に「お茶はねえ、まず形なのよ」と言う。棗(なつめ)は「こ」の字で、茶わんに茶筅(ちゃせん)を通し、「の」の字で抜き、茶巾(ちゃきん)は「ゆ」の字で拭く……。「意味なんてわからなくていいの。先に形を作っておいて、後から心が入るものなのよ」「頭で考えちゃだめ。稽古は回数なの。そのうち体が勝手に動くようになるから」

 野球のドリルと同じである。捕球体勢を繰り返し練習するうち、筋肉記憶(マッスルメモリー)が育まれ、技術として確立される。そう言えば、茶道もスポーツだと虫明亜呂無は書いていた。

 同じ時間、サブグラウンドで馬場敏史、藤本敦士の両内野守備コーチが行っていたのもドリルだった。日日是好日。毎日が良き練習の日々であることを祈った。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年11月11日のニュース