【内田雅也の追球】ここ一番で強みとなる阪神の盗塁策 大事なのはタイムよりタイミング

[ 2022年11月8日 08:00 ]

実戦形式の盗塁練習で北條は桐敷(左)から二盗を決める(撮影・大森 寛明)
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 盗塁した走者が次から次へと刺されていく。安芸での阪神秋季キャンプ第2クール3日目。午前に行われた「実戦スチール」練習。投手は右腕・村上頌樹、左腕・桐敷拓馬が務めた。野手陣が一塁走者となって、のべ21人走り、甘めの判定で二盗成功は4人だった。成功は悪送球が1つ。セット中に走ったギャンブルスタートで島田海吏がセーフ。桐敷がクイックなしで投げた時に豊田寛と北條史也が決めた。

 三塁側スタンドで眺めていた。目の前に地元の老夫婦がいた。いかにも野球好きの夫が「走ると分かってりゃあ、みんなアウトにできるんよ」と妻に解説していた。全くその通りである。

 単純計算すればわかりやすい。セットした投手が始動し、投球が捕手に届く投球タイムは1・2秒ほど。捕手が捕球し送球が二塁に達するのが2・0秒ほど。二塁手か遊撃手が捕球からタッチするのが0・2秒ほど。1・2秒+2・0秒+0・2秒=3・4秒である。

 一塁走者がリード地点から二塁到達するタイムは速い走者で3・5~3・8秒ほどか。計算上、盗塁は成功しない。

 クイック投法で1・0~1・1秒台の投手はざらにいるし、阪神・梅野隆太郎の平均送球タイムは1・8秒台。セ・リーグ記録の5年連続盗塁王に輝いた赤星憲広でも二塁到達は3・2秒。やはり無理である。

 では、なぜ実戦で盗塁ができるのか。変化球もあれば、ワンバウンドの投球もある。投手のクセもある。バッテリーの油断もある。走塁のタイムはあるが、いつ走るかというタイミングの問題が大きいのだ。憤死が相次いだ練習には、盗塁を考える意味があったろう。

 強肩の古田敦也(ヤクルト)が1991年、プロ野球記録の12人連続で盗塁を阻止した。記録を止めたのは岡田彰布(阪神)だった。5月8日の神宮。3回表2死、四球で出た岡田はディレードスチールを仕かけ、二塁を陥れた。直後、八木裕(現日本ハムコーチ)の二塁打で同点生還を果たしている。

 相手の虚を突く姿勢は監督としても強みとなろう。近本光司、中野拓夢や控えにも俊足走者が多く、盗塁は阪神の強みである。問題はここ一番で走れるか。スタートを俊足走者に任せたグリーンライト(青信号)ではなく、サインを出すという岡田の盗塁策は切れ味で勝負する。=敬称略=(編集委員)

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2022年11月8日のニュース