【内田雅也の追球】ロハス、木浪、大山…光った「状況」「窮地」での打撃

[ 2022年9月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6―5広島 ( 2022年8月31日    甲子園 )

<神・広>4回1死満塁、木浪は遊撃適時内野安打を放つ(撮影・坂田 高浩) 
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 5―5同点の7回裏1死満塁、目の前で大山悠輔の申告敬遠を見て打席に立ったメル・ロハス・ジュニアは状況を考えていた。避けたいのは内野ゴロでの併殺である。「チェンジアップも意識しながらコンパクトを心がけた」と話している。

 だから、2ボール―0ストライクから苦手な内角直球を強引に引っかけず、反対方向へ打ち上げることができたのだ。決勝の右犠飛となった。

 英語にはボールを「打つ」ことを意味する動詞が「ひっぱたく」「ぶん殴る」「ぐいと押す」……など159種類あるそうだ。大リーグの収集家、ザック・ハンプルが著書『ウオッチング・ベースボール・スマーター』で列挙している。恐らく、ロハスが話すスペイン語でも同様だろう。あの打席は「押す」「運ぶ」というスイングだった。

 このように、阪神打線で光ったのは、状況に応じた打撃である。前半5回までの5点は特に、打者にとっての窮地での姿勢が際だっていた。

 4回裏は佐藤輝明、ロハスがともに2ボール―2ストライクと追い込まれながら、ファウルで粘り、際どいボール球を2球見極めて四球、打線をつないだ。ともに一発もある、いわゆる「スインガー」だが、強振を自制しての選球が光った。

 1―1同点とした後の1死満塁では、木浪聖也が0ボール―2ストライクから九里亜蓮の外角低めチェンジアップに食らいついた。バットに当てて転がし、遊撃左へのボテボテゴロは内野安打にした。一時勝ち越しとなる殊勲打である。

 この場面で最も避けたいのは三振である。前に転がせば、併殺崩れでも勝ち越し点が入る。木浪はよく状況を理解していた。元監督の金本知憲(本紙評論家)が言う「ボテボテの効用」である。「追い込まれれば、当ててボテボテを狙うこともある」と話していた。

 5回表に逆転を許したその裏は2死無走者から追いついた。佐藤輝がフルカウントから右前打。さらに二盗を決めた。

 大山悠輔は1ボール―2ストライクと追い込まれながら、外角スライダーを軽打で二遊間をゴロで抜き、同点とした。

 日本語も「打つ」だけではない。木浪は「しがみつく」、大山は「はじき返す」打撃で窮地に結果を出したのだ。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月1日のニュース