【ラグビー日本代表2021秋の陣《3》】稲垣啓太「死ぬまでやりきれ」惜敗を白星に変えるための術

[ 2021年10月2日 14:03 ]

ラグビー日本代表の稲垣啓太
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 発する言葉が説得力を帯びるかどうかは、ひとえにその人自身の行動による。2度のW杯を経験し、リーダーグループの一員として存在感を放つプロップ稲垣啓太(31=埼玉パナソニックワイルドナイツ)はこの夏、民放のニュース番組で東京五輪のアスリートキャスターを務めた。

 「本当に勉強になった」と実感を込めるのは、やり直しのきかない真剣勝負のラグビーと同様、一発勝負の生放送ゆえか。「こういう状況だから、こういうことは口にしてはいけないとか、より考えながら話す機会をいただいた。より自分を分析する上で、成長する機会を与えていただいた」。ラグビーであれば長い期間を掛けてスキルを身に付け、チームでの連係を高め、対戦相手ごとに対策を練る。もちろんメンタルの準備も入念に行う。そして本番では、その成果が問われる。取り返しが付かないのは生放送も同じ。闘うフィールドが変わり、ジャージーからスーツに着替えても、何かしらの成長の糧を得ようという姿勢が、稲垣がプロフェッショナル中のプロフェッショナルと評価されるゆえんだろう。

 19年W杯でそのキャラクターが世の中に知れ渡るずっと前から、稲垣は日本ラグビー界になくてはならない存在だった。15人の最前線で体を張り、倒れてはすぐに立ち上がり、倒れっぱなしの仲間がいれば引っ張り上げる。固形物を乳幼児が食べられるよう細かく砕いて柔らかくするように、プレーヤー以外には理解が及ばないスクラム技術の深淵まで簡易な言葉と具体例で表現するのも得意とするところ。今後さらに、メディアを前に話す機会が増えるであろう稲垣にとって、本当に貴重な機会になったことだろう。

 9月30日、宮崎合宿で行われたフィットネスやストレングステストを前に、40人を超える大所帯を前に発した言葉も明確だった。「テストで見られているのは、体がきつい状態、呼吸がきつい状態、息が吸えない状態で、どれだけできるか。一番きつい状態で、自分が準備してきたものをどれだけ出せるかどうか。体の準備ができていても、メンタルが追いついていないと、一番苦しい時間帯に技術、能力を発揮できない。そこを死ぬまでやりきれということ」。話し言葉に抑揚がない分、逆に凄みがにじみ出る。死ぬまでやりきれ。一般社会ならもはやパワハラワードでしかないが、日本を代表する者たちの世界では別。もちろん稲垣啓太という有言実行者だからこそ、その言葉は初めて合宿に参加するような若手の心にも響く。

 W杯以来のテストマッチとなった今夏の2試合、特に7月のアイルランド戦では、その部分がまだ足りなかったと振り返る。「正直、勝たないといけない試合だった」一戦を落としたのは、苦しい時間帯で踏ん張りきれなかったから。「後半、普段なら仕留められるはずが、息を吹き返させてしまった」。相手ホームでの試合だったこと、そして仕留めるべきところでスコアできなかったこと。1年8カ月ぶりのテストマッチだったことを考慮すれば致し方ない部分もあるが、その要因については自分たちに矢印を向け、「いかに技術を身に付けようが、練習しようが、一番苦しい時間に身に付けてきた技術、判断力が出せなければ、正直練習する意味がない。できていないと相手に一度押される。春のアイルランド戦がそうだった」と言った。今回の宮崎では、その部分の鍛錬に取り組むことになる。

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2021年10月2日のニュース