年1本で10年「小林賢太郎テレビ」異例の歩み コントに人生捧げた“努力の人”積み重ねた“笑いの発明”

[ 2019年1月19日 12:00 ]

BSプレミアム「小林賢太郎テレビ10」にゲスト出演する大泉洋(右)(C)NHK
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 舞台を拠点に活動し、新しい形の笑いを追求している小林賢太郎(45)が年に1回、テレビで新作コントを披露してきた「小林賢太郎テレビ」の最新作「小林賢太郎テレビ10 “X”」が19日午後11時45分からNHK BSプレミアムで放送される。2009年にスタートし、節目の10年目&第10弾。初回から番組の演出を手掛けるNHKエンタープライズの小澤寛ディレクターが見どころを明かし、年1本の放送ながら10年間続いた異例の歩みを振り返った。

 近年は第5弾(13年)「マルポ便」(大泉洋)、第6弾(14年)「なぞなぞ庭師」(松重豊)、第7弾(15年)「連続テレビ文庫 エンヤートット」(上野樹里)、第9弾(17年)「リバーシブル探偵」(大森南朋、壇蜜)とミニドラマを軸にし、その間にさまざまなコントが入る構成が目立った。今回の第10弾はミニドラマがなく、番組恒例「お題コント」が柱となる。

 「お題コント」は出されたお題に対し、小林が3日間でコントを作る様子を追ったドキュメンタリーと、出来上がったコントの発表で構成されるコーナー。小澤氏は「10作目で改めて、小林賢太郎さんがどういう人なのかを紹介したい。もちろん10作目ならではの仕掛けもあるので、そちらも一緒に楽しんでもらえれば。皆さんが知らない小林賢太郎をお見せできると思います」と「お題コント」が全体を貫く意図と見どころを説明。前回は北海道発の人気バラエティー番組「水曜どうでしょう」の“ミスター”こと鈴井貴之(56)がお題を出したが、今回は番組が出題する。

 「お題コント」の間にコントが計8本。記念回とあり、スペシャルコラボレーションが実現した。

 大泉洋(45)との普段の会話をベースにした漫才風しゃべくりコント「小林賢太郎×大泉洋」が3本。松重豊(55)は、ある競技の国際大会を舞台にした「投道」、落語を題材にした「かみがたらくご」の2本に参加。KREVA(42)はコントとラップの融合という誰も見たことがない作品「本と嘘」に挑んだ。そして、小林が尊敬するパフォーマー3組、テツandトモ、が〜まるちょば、ふじいあきら(51)が集結したのは小林流のサラリーマンコント「会社員に向かない人々」。そして脇を固めるのは、小林が絶大の信頼を置く俳優陣たち(竹井亮介、辻本耕志、小林健一、久ヶ沢徹、犬山イヌコ)。

 小林が16年に立ち上げたプロジェクト「KAJALLA(カジャラ)」は毎回、小林がその時、一緒にコントをやりたいメンバーと公演を行うプロデュースユニット(今年は♯4「怪獣たちの宴」、2〜4月、なだぎ武・竹井亮介・小林健一・加藤啓・辻本耕志・小林賢太郎)だが、今回はそのテレビ版とも言える。「今の小林さんがコントを書いてみたい人に集まっていただきました。松重さんも大泉さんも大変お忙しい方ですが、松重さんには『小林さんの作品には、ぜひ出演したい』とご快諾いただき、大泉さんもご出演映画の公開が続く大変忙しい時期だったにもかかわらず、スケジュールを調整してくれました。さらに小林さんと親交があり、ずっとゲストとしてお呼びしたかった鈴木杏さんにはナレーションで、落語家の柳家三三さんにも語りでご出演いただくことができました。区切りとなる10作目にふさわしい布陣になっていると思います」

 昨年5月からキャスティングを進め、コントは11月下旬、お題コントは12月に入って撮影した。KREVAは日本語の達人として第3弾(11年)に出演し、オリジナルの“言葉ゲーム”を繰り広げた。今回は7年ぶりの登場となる。KREVAのメジャー6thシングル「国民的行事」(05年)のPVには小林が出演している。

 「KREVAさんとのコントは、2人がゼロから作り上げました。『この作品は、僕の作品であると同時にクレの作品にもしたい。クレに自分の言葉としてラップして欲しいんだ』。そう小林さんがKREVAさんにおっしゃっているのを聞いて、小林さんの表現者KREVAさんへの強いリスペクトの念を感じました。作業はテーマ決めから始まり、小林さんが一度、コントの叩き台を作ってKREVAさんに渡し、KREVAさんが『韻を踏むなら、こういう言い回しがいい』と練り直して。KREVAさんのスタジオで実際にセリフを録音しながら台本を検討したことも。いろいろなキャッチボールを何度もして出来上がりました。今回、一番、台本の改訂が多かったのがこの作品です。その分、今までの『小林賢太郎テレビ』にはなかった味わいを持つ作品になっていると思います。そして、テツandトモさんはNHK『爆笑オンエアバトル』で同時代を盛り上げた仲。が〜まるちょばさんはパントマイマーとして、ふじいあきらさんはマジシャンとして小林さんが非常に尊敬しているので、この3組と一緒にできたら面白いねと話をしていたら1日だけスケジュールが合う日があったんです。しかも、撮影初日。楽しげにコントを演じる皆さんを見ながら『10』の手応えを感じました。今回は大泉さんなら“言葉”、松重さんなら…など、ゲストのどの部分を生かしたら面白いコントになるのか、小林さんならではの視点が今までにない見どころになります。『投道』というコントがあるんですが、そこの松重さんはたぶん誰も見たことがない松重豊だと思います」

 第10弾放送決定の際、小林はNHKを通じて「2009年から年に1本のペースで発表してきたこの番組は、10年の月日を経て“X”に到達します。こんなにも特別な現場を与えていただける僕は、コント師として幸せ者です」とコメント。小澤氏も「1年に1回しか放送しないコント番組って前代未聞だと思いますが、その在り方こそ小林さんらしいと思いますし、そのスタイルで10年間続けられたというのは小林さんとしても感慨深いんではないのでしょうか」と推し量りつつ「毎回、番組側から無理なお願いをして、小林さんもいろいろ思うところもあったと思いますが(笑)、10年付き合ってくれたことに、本当に感謝しています」と振り返った。

 10年間、間近で目にし、肌で感じるクリエイター・小林賢太郎の凄さについて尋ねると「私が知る限り、自分の人生をコントやモノづくりに一番捧げているのは彼だと思います。何でも器用にこなしそうですが、実は努力の人なんです」。前作のお題コントのテーマは「失敗」で、小林はリングの手品を披露しながら「血が出るまで練習した」とし「できないの、オレは、基本。何だったら基本、みんなより時間かかるぐらい」と語っていた。第8弾(16年)の時のインタビューでも、小澤氏は「側で見ていて思うのは、決して天才ではなく努力の人だということ。8年前のインタビューでも言っていましたが『0から1は作れないが、0から0・1は作れる。その作業を10回やれば1に、100回やれば10になる。ひたすら、その作業を繰り返している』。眠っている時以外は、ずっとコントのことを考えているんじゃないんですか。一緒に食事をしていても、次のコントのことが常に頭の中にあって。突然、ふと『あっ、思い付いた』と。『今、私の話、聞いてました?』と思うこともあります」と笑いながら明かしていた。

 そして「小林さんの舞台作品は、彼が自分で脚本を書き出演し、演出もします。『小林賢太郎テレビ』は彼が脚本を書いて出演することは同じですが、演出は私との共同作業になります。小林さんは台本というコントの設計図をきちんと機能させることを考え、私は彼のやりたいことを、テレビというメディアでどう構成し、映像化するかを考えます。予算とスケジュールを横目で見ながら(笑)。お金を払ったお客さんが暗い客席で見る舞台と、スマホを手にザッピングしながら視聴するテレビとは大きく性質が異なります。とはいえテレビのセオリーに則って、分かりやすさ一番で作っては小林さんの作る笑いは死んでしまう。かと言って全く伝わらないと意味はない。そのバランスは1作目から10年たった今でも、ずっとテーマです。テレビ屋としてのセオリーで演出すると、小林さんの設計図そのものを壊してしまうこともある。大変な作業をしているというのはいつも感じています」と、この番組ならではの演出の難しさを語った。

 「どこまで説明するか、どこからお客さんに委ねるか、という演出の難しさ以外に、単純に『作り方が分からない。正解が分からない』という大変さもあります(笑)。今回も『これどうやって作るんだろう?何が正解なんだろう』と頭を悩ませたコントがあって。松重さんが参加した『かみがたらくご』というコントなんですが、笑いを発明するのが『小林賢太郎テレビ』ですから、作り方を作る作業から始めることが多いんですが、『今回もあったか!(笑)』って。でも、そういうものこそ面白がってくれる出演者やスタッフがいて、一緒に悩んで付き合ってくれる。本当にありがたいと思います」

 最後に番組が10年間続いた理由を尋ねた。

 「今、まさに言いましたが、小林さんが生み出す誰も見たことがない笑い。それを面白がって、楽しんでくれる人たちがいる。今回はその集大成と言えると思いますが、大泉さんや松重さんといったゲスト陣、竹井さん、辻本さん、犬山さんといったレギュラー陣、そしてスタイリストの伊賀大介さん、振付の平原慎太郎さん、NHKの美術スタッフ、技術スタッフ。そういう人たちが面白がって支えてきてくれたからこそ、ここまで続いたんだと思います。小林さんが誰も見たことがない笑いを作る。それを面白がって、小林さんと一緒にやりたいと思う出演者、スタッフが集まってきてくれる。そして力を貸してくれる。そういう人たちに触発されて、また小林さんが新しいものを作る。そうして出来上がった作品を視聴者の皆さんに楽しんでいただく。いい循環ができたと思います。最近、小林さんは演劇をやっている中学生、高校生たちを応援する活動もされているんですが、願わくば『小林賢太郎テレビ』10作品を『中学の時に見て作家になりました、俳優になりました、美術家になりました』というような人が現れて、その循環が未来にも続いていくといいなと思っています」

 小林賢太郎の歩みが詰まった集大成中の集大成を思う存分、堪能したい。

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