【内田雅也の追球】鏡の前に立ち「伝統」を感じる意味 足りないのは自分たちへの「怒り」

[ 2022年4月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5-6巨人 ( 2022年4月1日    東京D )

6回、佐藤輝は空振り三振に倒れ、バットを振り上げる
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 泥沼のような開幕7連敗を喫した猛虎たちは鏡の前に立つことだ。

 今季初の「伝統の一戦」で、復刻ユニホームを着用した。プロ野球初年度1936(昭和11)年の年度優勝決定シリーズで着ていたものだ。

 洲崎球場での3連戦は1勝2敗で巨人に敗れた。「洲崎の決戦」と呼ばれる。職業野球と呼ばれ、まだ社会的地位は低かったが、<連盟関係者も巨人対タイガースが、プロ野球の黄金カードになると確信した>と森田創『洲崎球場のポール際』(講談社)にある。それほど闘志がぶつかり合った熱戦だった。優勝が決まった12月11日は<伝統の生まれた日>だった。

 鏡に映った、そのユニホームを汚してはならない。草創期のメンバー、主将・松木謙治郎もエース・若林忠志も主砲・景浦将も後のミスタータイガース・藤村富美男も……皆、打倒巨人を思って入団していたのだ。

 この夜、最後は確かに1点差だった。余計に失った1点の重みが増す。3回裏、先頭の遊ゴロを中野拓夢が失策した。2死一塁としながら、藤浪晋太郎が「あと1死」を奪えず2失点した。失策はむろん痛いが、味方がミスした時こそ踏ん張れる投手でありたい。

 4回を終えて0―6。開幕戦を思い出しただろうか。ヤクルト相手に4回を終えて8―1とリードしながら、逆転負けを喫した。あの悪夢を忘れてはいまい。

 足りないのは「怒り」ではないか。伝統を汚した情けなさ、ふがいない自分たちへの怒りだ。

 5、6回表の長短4安打は「何くそ」という怒りをバットにたたきつけたスイングが見えた。6回表、ボール球を振って三振した佐藤輝明はバットをたたきつけるようなしぐさを見せていた。あれが野村克也の言う「憤怒の力」の源である。

 英語の奇跡(miracle)と鏡(mirror)は同じ語源だ。ラテン語のmirusで「不思議なくらい、すばらしい」といった意味だ。

 マイケル・ジャクソンの『マン・イン・ザ・ミラー』の歌詞にある。<鏡の中の男に呼びかけるんだ 生き方を改めようと(中略)自分を見つめて 変わることさ>

 奇跡に通じる鏡である。そこに映るのは他の誰でもない、自分ではないか。自分が変わらねばならない。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年4月2日のニュース