野球も「歯が命」 高野連が「マウスガード」の普及へ 事業対象校の花巻東・麟太郎が突破口開く

[ 2022年3月8日 05:30 ]

マウスガード製作のため歯型をとる材料を噛(か)む花巻東ナイン(撮影・西川 祐介)
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 野球界では聞き慣れない「マウスガード」。現在、日本高野連と日本学校歯科医会が故障防止のために普及を目指している。浦和学院(埼玉)などで実施してきた「マウスガード普及調査」は、今春センバツで優勝候補に挙がる大阪桐蔭、怪物スラッガー・佐々木麟太郎内野手(1年)を擁する花巻東(岩手)にも波及。その現状と必要性に迫る。

 上を向いた花巻東ナインが、思わず涙を浮かべる。昨年12月。歯科医師の処置の下、各自がピンク色で軟らかい「異物」をかみ、約3分間もキープした。それぞれの歯型に合うマウスガードを作るための作業。えずく選手もいたが、歯を守るために必要なプロセスだ。

 それから約2週間が経過した今年の1月上旬。高校野球でも使用可能な透明のマウスガードが完成した。高校通算41本塁打を誇る花巻東の4番・田代旭主将(2年)は装着して打撃練習も行い「違和感なく、食いしばることができた。振りやすくなったと実感しました」と好感触。さらに「ケガをすると無駄な時間を過ごしてしまう。着けていこうと思います」と語った。

 今回の事業を主導する日本学校歯科医会の野村圭介副会長は「今は周知のステップ。甲子園で強豪校が着けている姿を見て、全国の子供たちが装着するきっかけとなり、少しでも多く歯のケガを防止できれば」と狙いを語る。目的に応じて歯、唇、舌などに使用する「マウスピース」において、歯を守ることに特化したものが「マウスガード」。高校野球では2010年から「白または透明なものに限り」と条件付きで使用が解禁された。ラグビーや柔道など激しいコンタクトを伴うスポーツでは必須アイテムだがマウスピースに比べて前歯に当たる面が厚くなっており、しっかりと歯型に合っていない既製品などは「唾液がたまる」、「声を出しづらい」などの理由で高校野球に浸透する速度は遅いという。

 花巻東のマウスガード製作に携わった岩手県歯科医師会の鈴木卓哉常務理事は「野球は歯にボールが当たると重篤な症状になりやすい。永久歯を一度折ってしまえば最終的にはインプラントや入れ歯になるケースが多い」と訴える。野球は体のぶつかり合いこそ少ないが、打席での死球や守備の際の打球のイレギュラーバウンドなどで歯を失うケースもあり「“たかが歯”ではない」と力を込める。

 高校野球において歯を守るために日本学校歯科医会と高野連が動いたのは17年。浦和学院と川越工で型取りや、装着、調整を行う「マウスガード普及調査」をスタートさせた。昨年11月には花巻東だけでなく大阪桐蔭にも協力を依頼。試合での装着は選手の自由だが、鈴木理事は「練習の時から着けてもらいたい」と願う。

 18日に開幕するセンバツでは花巻東、大阪桐蔭、さらに浦和学院も登場する。歯との付き合いは一生。関係者はマウスガードがヘルメットのような体を守るための「必需品」として、広く認識されることを目指している。(柳内 遼平)

 ≪プロでは使用選手増えている≫プロ野球ではマウスピースを使用する選手が増えている。かみ合わせをよくしてパフォーマンスの向上を狙う打者だけでなく、日本ハム時代のダルビッシュ(現パドレス)は10年に3本ある親知らずに悩み、歯科医に相談の末に装着。楽天・田中将も11年の春季キャンプで使用したことがある。近年では星稜時代に歯が欠けた経験があるヤクルト・奥川も昨年の春季キャンプで一時的に導入した。

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