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【内田雅也の追球】ヒカンザクラが教えてくれる「練習常善」 その先にある誰かを喜ばせる姿勢

[ 2022年1月27日 08:00 ]

寒い冬ほど美しく咲くと言われるヒカンザクラ

 沖縄からヒカンザクラ(緋寒桜)の便りが届くころになった。今帰仁城跡や名護城跡では見ごろだという。阪神キャンプ地の宜野座村でも咲いていることだろう。

 秋から冬、低温にさらされることで休眠から目覚め、暖かくなれば開花する。だから沖縄では十分の寒さがある北部や山地の方から咲き始め、桜前線は南下していくわけだ。冬が寒いほど美しく咲く、とも言われる。

 「耐雪梅花麗」(雪に耐えて梅花麗し)である。桜と梅で花は違えど、厳しい冬の寒さに耐えてこそ、愛らしい花が美しく咲くという意味だ。

 西郷隆盛が詠んだ漢詩の一節で、元広島の黒田博樹が座右の銘にした。上宮高(大阪)時代に学んだらしい。

 大リーグ・ヤンキース時代の2012年3月、ミーティングで選手が好きな言葉を日替わりで披露した。黒田が選んだのがこの漢詩だった。主将のデレク・ジーターが「彼の詩はわれわれに直接あてはまる」と感じ入った。「良い時も悪い時も常に変わらず汗を流し続けることが大切だし、頑張れば必ずその報いがある」。本紙通信員・奥田秀樹が伝えていた。

 26日は「学生野球の父」と呼ばれた飛田穂洲の命日だった。早大初代監督として「一球入魂」の精神野球を説いた。

 飛田の言葉のなかに「練習常善」がある。練習で手を抜かず、最善を尽くせという教えである。試合ではなく練習そのもの、日々の自己研さんに意義を見いだしていた。

 『少年球児に与う』=『学生野球とはなにか』(恒文社)所収=で<野球試合は優勝旗の争奪のみが目的ではない><魂の鍛錬を唯一の目的>と書いた。

 古くさい精神論だと笑ってはいけない。プロ野球にあっても勝利や優勝だけを目的にしていては、やがてむなしさに襲われる。阪神監督・矢野燿大が言う「優勝は目標であっても目的ではない。目指すのは誰かを喜ばせること」でありたい。

 さらにプロ野球選手も現役を引退してからの人生の方が長い。野球での人格形成という姿勢は学生もプロも変わらない。

 飛田は回想録『熱球三十年』(中公文庫)で<野球のコーチというものは、寺子屋の師匠のようなものだ>と書いた。<呼吸も相通ずれば、手も触れあう。そこに自然の情愛がわく――>

 花開く日を夢見ながら、そんな練習の日々でありたい。 =敬称略= (編集委員)

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