試合なければ“水の泡” 洗えないと笑えない収入「ゼロ」クリーニング専門店の苦悩

[ 2020年4月10日 05:30 ]

コロナで野球が消えた【ユニホーム扱うクリーニング店】

選手から贈られたユニホームなどが飾られている高山ランドリーの店内。高山準一さんは「一日も早い終息を」と願う
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 プロ野球の開幕延期により、選手の「正装」であるユニホームを洗うクリーニング店にも大きな影響が及んでいる。長年、プロ、アマチュアの野球チームのユニホームを中心に扱ってきた「高山ランドリー」(東京都江東区)の高山準一さん(74)は先行き不透明な状況で、不安な日々を過ごしている。

 町工場が多く立ち並ぶ江東区の一角。高山ランドリーは創業36年目を迎える老舗だ。高山さんは、独立以前に勤めていたクリーニング店を含めれば、40年以上にわたって、真っ白なユニホームを選手に届けてきた。そんな日常が大きく変わった。入り口付近には、試合が行われる球場や開始時間が細かく書かれたスケジュール表があるが、昨年のまま。「こんなケースは長くやってきて初めて。最初は人ごとみたいだったのに大変なことになった」と戸惑う。

 現在、南海時代から請け負っているソフトバンクをはじめ、ロッテ、楽天、DeNAの4球団の主に関東ビジター時を担当。5年ほど前まではヤクルトも長年担当していた。関東で試合を行う際の侍ジャパンや、都市対抗野球の開催時期は社会人チームからの依頼も受けている。かつては、選手個人の外出用のスーツを扱うこともしばしば。「遠征先のロッカーで着替えて、試合後すぐに街へ遊びに行く選手も多かったからね」と振り返る。

 クリーニングの料金設定はチームによって異なり、靴下やアンダーシャツなど単品ごとや、一選手一試合ごとで計算するのがほとんど。年間契約しているチームはなく、試合が開催されなければ収入は「ゼロ」となる。店の売り上げは前年に比べて「3~4割減ぐらいになる」と見積もるが、開幕の時期次第ではその見通しも崩れることもあり得る。

 通常通りであれば、練習後の夕方と試合終了後の深夜の2回、各球場やホテルでユニホームを回収。未明から作業を始め、早朝には洗い終わったユニホームを球場に届ける。しかし、開幕延期が決まって以降、店内の機械は稼働していない。「本当なら球場に行く準備をしているはずなんだけどね」。午後5時すぎの静かな店内で、高山さんは寂しそうにつぶやいた。

 一日も早い終息を願うばかりだが、今は朝に起きて食事をし、外出も控えているため、自宅で趣味の盆栽をするぐらいという。「手持ちぶさたというか、毎日気合が入らないし、気持ちもなえてしまう。仕事がないと遊んでてもつまらないしね」と当たり前の日常が送れるありがたみを身に染みて感じている。

 球界に暗い影を落とす新型コロナウイルスの感染拡大。開幕の議論は凍結され、結論が下されるのは5月以降の見込みだ。「開幕に向けて気持ちを高ぶらせていたのに…」。専門店であるがゆえ、高山さんはかつてない苦境に立たされている。

 ≪名選手のグッズ壁にズラリ≫店内の壁には、移籍や引退の際に選手から贈られたグッズが多く飾られている。楽天・今江敏晃コーチのロッテ時代のユニホームをはじめ、ヤクルト・若松勉元監督のポスター、「大洋ホエールズ」と印字されたペナント。店の歴史と丁寧な仕事で積み上げた信頼が感じられる。ユニホームはサイン入りのものも多く、高山さんは「選手自ら“サイン入れときますよ”と言って書いてくれることが多かった」と懐かしそうに語った。(田中 健人)

 ≪業務停止状態で社員数人は休業に≫NPB12球団と契約し、野球以外にも病院、警察など幅広い業種を取り扱っているのが、仙台市に本社がある「オートランドリータカノ」だ。全国の80工場と提携し、各球団のニーズに対応してきたが、野球界の動きが止まり、スポーツ関連の「業務部スポーツ事業部」は業務停止状態。東京支店では3月26日から社員3人、パートタイム15人が、本社では3月31日から社員4人、パートタイム15人が基本的に休業している。同部の奈良智行マネジャー(58)は「うちの部署に加えて、ホテルのリネン事業も売り上げ的にはかなりの落ち込みです」と説明する。

 まだ見えない再開だが、準備に余念はない。各球団の全体練習再開を想定し、職員には朝夕2度の体温測定と外出自粛などの自己管理を徹底している。再開時は工場入場時のアルコール消毒と、回収時のマスク、使い捨てゴム手袋の装着の実施を協力工場に依頼。態勢が整った工場に使い捨てゴム手袋を配布する対応策を立て、その時を待っている。(春川 英樹)

 ≪試合日は1000着も≫現在、プロ野球は多くの球団が活動休止、もしくは自主練習となっている。巨人の場合、通常、試合がある日はアンダーシャツなどの一式を含めて900~1000着がクリーニングに出されるという。現在、主力組は3月26日から個人調整期間に入っており、ユニホームではなく各自のトレーニングウエアで練習している。

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