【内田雅也の追球】負けから学ぶ高校野球精神 阪神もすでに喫した43敗を夏に秋に生かしたい

[ 2022年7月10日 08:00 ]

「VICTIS HONOS」(敗者に名誉を)の刻印がある1915年の第1回全国中等学校優勝野球大会の参加章
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 便利な時代で、インターネットを通して、全国の高校野球地方大会の生中継が見られる。朝から見続けた。

 仕事柄、高校野球の監督にも知り合いが多い。9日は彼らの指導するチームが多く敗れていった。3年生の最後の夏を思うと胸が痛む。

 壮大なトーナメント戦を戦う夏の高校野球である。全国優勝の1校を除き、等しく1度敗れて夏が終わる。いかに負けるかという難しいテーマが横たわっている。

 「負けから学べ」と野球の神様はいう。夏の選手権大会が始まったのは1915(大正4)年だった。まだ甲子園球場はなく、豊中で開催された。第1回全国中等学校優勝野球大会といった。

 この時、出場10校の選手に配られた参加章メダルにラテン語で「VICTIS HONOS」と刻まれている。「敗者に名誉を」という意味だ。深紅の優勝旗の「VICTORIBUS PALMAE」(勝者に栄光あれ)と対をなす。

 この敗者について、野村克也が<人の一生もそうだ>と書いている。著書『高校野球論』(角川新書)にある。<勝ち続けの人生なんて絶対にない。というより、ほとんどの人は負けることのほうが多いはずだ>。

 自身も峰山高(京都)で甲子園にとどかず、テスト生で入った南海(現ソフトバンク)でも毎年、クビを覚悟していた。<「どうすれば勝てるのか」と懸命に考え、試行錯誤した。その過程が私を技術的にも精神的にも進歩させ、成長させた>。だから「失敗と書いて、せいちょうと読む」と口にした。<勝者を讃(たた)える一方で敗者にも拍手を送り、挫(くじ)けることなく負けの経験を活(い)かし、大学に進んだり、社会に出たあとも、懸命に生きていってほしいと願う>。

 シーズン143試合を戦うプロは明日がある。野村は<高校野球に見習うべき>として<一所懸命>をあげ<全力疾走と全員守備>、さらに<監督は自分自身を成長させよ>と書いている。

 阪神監督・矢野燿大も2018年秋の監督就任時「負けを大切にしたい」と繰り返した。負けから学ぶ高校野球精神だ。

 ヤクルトのコロナ感染で試合は中止となった。今季すでに喫した43敗を生かす夏、そして秋でありたい。=敬称略=(編集委員)

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