ゴタゴタ続いたラグビー界に見た“一筋の光” アスリートによる意思発信の大切さ

[ 2020年3月25日 11:24 ]

マスク姿でトップリーグ中止決定の経緯を説明する太田チェアマン
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 空前の活況を呈していたラグビートップリーグが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、残り全試合の中止が決まった。当初予定されていたシーズン最終節は5月9日。まだ1カ月半先まで試合を残していたことを考慮すれば、また他競技興行の動向と比較すれば、やや早い決断だったと感じる。理由としては数試合を消化した程度では1シーズンとして成立しないこと、情勢が許せば5月23日に開幕する日本選手権を、当初の予定(トップリーグ4強によるトーナメント)よりも拡張して開催する意図があるためと受け取っている。

 一方で3月14、15日の第9節以降は、年度内で相次いだ薬物事件を受け、「コンプライアンス教育の徹底」を理由に休止していたことを忘れてはならない。9日の会見でトップリーグの太田治チェアマンは、再開の判断について「インティグリティー(高潔さ)の追求を図り、リーグ全体で正常化を証明すること」を条件に挙げた。ところが18日、日本協会理事会後のブリーフィングでの説明で、再開めどが新型コロナウイルスの状況に転じ、今季中止を決めた23日の会見でも「コンプライアンスのことは各チームと詰めている。4月初めをめどに状況を説明したい」と話した。これはいくら何でも遅い。

 23日の中止決定前の段階では、4月4日からの再開が予定されていた。そのためには当初の説明通り、遅くとも3月末には「正常化を証明」しなければならなかったはず。肝心のコンプライアンス教育の中身を聞いても、協会主導で何らかの施策を打った形跡は見当たらない。リーグ休止の本当の理由は何だったのか。「コンプライアンス教育の徹底」と聞いた時、誰もが首をかしげた原因が、協会の本気度のなさにあったことは否めない。

 一連のゴタゴタはラグビー界にとって、明るいニュースではなかった。ただ一つ、16日に日本ラグビーフットボール選手会(JRPA)が声明文を発表したことだけは、一筋の光を見た思いがする。「薬物休止」の決定後、選手の思いがなかなか見えてこなかった中、結束して協会の決定に異論を唱えたのは、画期的なことだった。

 選手会は前々回W杯後の2016年に正式に発足した。600人を超える加盟選手はプロアマ混在で、価値観にもばらつきがあるだろう。プロ野球選手会のような労働組合の機能はなく、いわゆる平時は存在感を発揮しづらい面があったように思う。ただ、今回は明らかに非常時。選手個々では声を上げづらい雰囲気がある中で、はっきりと物申したことに意義がある。

 東京五輪の開催延期決定までの経緯を見ていても、そこには予定通りの開催で押し切ろうとしたIOCなどに反旗を翻した選手の存在があった。ドイツのフェンシング代表選手は、予定通りの開催なら出場を辞退すると表明した。他にも個人名で通常開催に異論を唱えた選手がいる。五輪以外でも延期や中止が決まった海外プロスポーツは、主催団体とその選手会が連名で発表するものが散見された。月並みかも知れないが、それらはアスリートファーストの象徴だろう。

 まだ誕生から4年と経たないラグビー選手会。事務局長を務める馬場靖氏によると、現在は月に一度、日本協会とミーティングを実施しており、来年秋の創設を目指す新リーグについても、担当者と意見交換を始めているという。同事務局長は「日本協会といい意味で対立と協調をしていきたい」とも話す。少しずつでも価値と存在感を高めていけば、いずれはもっと選手の声が反映されるラグビー界になるはずだ。

 東京五輪の延期決定でも証明された、アスリートが意思を発信することの大切さ。今回の薬物禍が、将来的にプラスに働いたと評価される日が来ることを願いたい。(阿部 令)

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