障がい者アスリート支援 二宮清純氏とDOSA大島伸矢氏が対談

[ 2020年3月25日 07:00 ]

障がい者アスリートへの支援と彼らの活躍を願いガッチリ握手する二宮氏(左)と大島氏
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 近年、世界で戦う障がい者アスリートの活躍は広く伝わるようになってきた。一方で、世界で戦える可能性を秘めているのに、障がい者スポーツへの認知や理解の低さから必要な支援を得られず、その可能性が人知れず閉じてしまっているケースが存在するのも事実だ。今回、そんな「世界」を目指すアスリートを支援する活動を続けるスポーツ能力発見協会(DOSA)の大島伸矢理事長(49)と、障がい者スポーツに精通するスポーツジャーナリストの二宮清純氏(60)が対談。同協会のアスリート支援プログラム「DOSAパラエール」や、DOSAがコラボするリクルートキャリア「アスリート応援プロジェクト」などについて活発な意見が交わされた。

二宮  さっそくですが、DOSAを立ち上げたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

大島  DOSA設立の前、07年に立ち上げた会社では、子供に何が向いているか、どんな志向性があるかをチェックするシステムづくりをしていました。私自身が学生時代にサッカーをしていたので、スポーツに特化した能力チェックや、各々に向いているスポーツのアドバイスをできないかと考えるようになりました。その中で、子供向けの体力測定は1964年から方法がほぼ変わっていないことが分かりました。ストップウオッチやメジャーを使ったり、ジャンプ力はひもをつけ、チョークで測ったりしてアナログでした。14年2月に設立したDOSAでは、欧米などから測定機材を導入し、測定方法も変えていきました。

二宮  確かにアナログなイメージがありますね。具体的にはどういったところでしょうか。

大島  64種目の運動能力を分析しました。どの基礎能力が高くて、どのスポーツに向くのか、長所短所を明確にします。これにより例えばサッカーに向いている子の場合は、全体の能力を伸ばしつつ、さらにサッカーに必要な能力も伸ばしていくということがアドバイスできるようになりました。

二宮 「子供がどのスポーツを選択するか」について、従来は〝この道一本でやるように〟という固定観念や、保護者の意向が反映される場合が多かったように思います。

大島  そうですね。私たちは基本的に、子供たちの「好きかどうか」を重視しています。ただ、"食わず嫌い"になることがあるので、測定により向いているスポーツを数種類示し、実際に経験してもらいます。それよってサッカーより柔道が楽しい、またはバレーボールに向いているなどと思えば替えてもいい。

二宮  なるほど。このような先進的な測定機材は日本ではDOSAにしかないわけですね。では、スポーツ能力測定と並行して支援プログラム「DOSAパラエール」に取り組まれた経緯はどのようなものでしょうか。

大島  はい。先ほどの運動能力測定会には障がいを持つ子供たちにも参加してもらいたいと思っていましたが、15年当時はほとんど集まりませんでした。「自分にできるはずがない」「人に見られたくない」「健常者が集う場所に行きたくない」という声が多かったのです。さらに「測定したいけど、(バリアフリーなど適用する)場所がない」という意見もあり、それが支援するきっかけになりました。

二宮  障がい者の方ならではの悩み、理由などがあるのですね。

大島  そうなんです。では、海外ではどうなのかといえば、障がいを持つ人も堂々とされている。例えば、海外では学習の面などでも彼らをケアする社会がきちんとあり、どんどん外に出ていく。日本はどちらかといえばその点で遅れているので、アクションを起こすケースが少ない。障がい者手帳を持つこと自体をためらう場合もあるのです。

二宮  手帳がないとパラの国際大会に出られないという国は日本以外あまり聞かない。

大島  はい。間違いなく国際大会などに出られる能力を持ちながら、申請したくないといって断念した選手もいます。障がい者を特別扱いする空気があり、堂々としたくても人目が気になってしまう。

二宮  ソフト、ハード両面でバリアがまだ残っているということですね。それでは、障がい者アスリートを取り巻く状況はどのようなものでしょうか。

大島  私たちは障がいがあるアスリートを測定するために、それぞれの住居に向かいます。そこで測定可能な種目、能力、平均値、そしてプレーできるスポーツを提示します。

二宮  なるほど。客観的な数値でアスリートの可能性を提示するわけですね。

大島  はい。しかし測定の結果、能力が高く、国際大会の強化指定になれるレベルの選手がいたとしても競技を習う環境がないのです。そこで私たちは4、5年前から各競技団体に「強化指定選手、育成選手が何人いて、代表枠はどれくらいあるのか」をヒアリングしました。例えば当時、代表枠があっても選手そのものがいなかったパラテコンドーでは、競技をしたいという選手が出て日本代表として派遣された途端、いきなり世界大会3位に入ったケースがありました。他にも代表枠はあるけれど選手が少ない、またはいない競技はたくさんありました。スポーツを諦めている人が、チャレンジすれば日本代表やメダルは遠くない!ということを世の中に伝えてあげれば目標を持ってスポーツを始める人を増やせるはず!と思っていました。一方でパラ陸上、車いすバスケットボール、車いすテニスのようなメジャー種目にはたくさん代表枠があるものの、競争率も高い。とても偏っていました。

二宮  (競技団体としては)人数が多ければ補助金が出る場合もあることが大きいのでしょうか。日本は割と選択と集中型ですね。

大島  例えばパラフェンシングも選手層が厚くはありませんでした。私たちが出会った中には、能力があり、競技を始めれば強化指定選手になれるという人がいたのですが、練習場所がない。富山に住んでいて、教えてもらうには京都まで行かなければならない。通えないから諦めるといったケースがあります。

二宮  選手の能力とは別の要因が障壁になるのは残念ですね。

大島  強化指定選手などの肩書がなければ支援もなかなか受けられない現実があり、交通費がないのでスポーツをすること自体も諦めなければいけないという現実をたくさん見てきました。そこで、アスリートに自身のSNSを通じて頑張っている姿を発信してもらうことを条件に、寄付を募って交通費を支援させていただく活動を始めました。

二宮  「DOSAパラエール」の始まりですね。そこから、リクルートキャリアとのコラボも始まったようですね。

大島  はい。19年から行っている「アスリート応援プロジェクト」です。リクルートグループさんには「個の尊重――BET ON PASSION」という価値観があり、リクルートキャリアさんには「どんな時でも、一人一人の可能性を信じ、期待し続ける」という思いがあります。そこが私たちの考えとも合致するということで、お声掛けいただいたのです。

二宮  可能性、という言葉でつながったのですね。

大島  僕らだけでは寄付はなかなか集まりません。さまざまな制約によって「あと一歩」が届かないアスリートたち。そんな「あと一歩」にエールを送るプロジェクトを私たちも一緒にさせていただく。リクルートキャリアさんが企業にいろいろ声を掛けていただいたことで第1期(19年)は15社、第2期(20年)は11社から支援をいただくことになりました。2期は、1社から1口10万円を協賛金として支援していただいています。

二宮  素晴らしい取り組みですね。第2期はアスリート3人を支援されていますね。

大島  車いすフェンシングの千坂香菜選手、パラ馬術の稲葉将選手、パラローイングの成嶋徹選手です。3人が残す結果も大事ですが、我々は3人の努力のプロセスもSNSで発信していきたいと思っています。

二宮  3人にはそれぞれのライフストーリーがあるようですね。

大島  千坂選手は知り合った当時、結婚して、子供が小さかった。子育てがあり練習に行けないという環境だったので、僕らはベビーシッター代を支援しました。その後はトレーナー派遣、競技で車いすを固定する器具を支援しています。

二宮  稲葉さんはいかがでしょう。

大島  稲葉さんの馬術は馬が2頭必要など資金が重要。その馬への投資以外の活動費用をできる限りサポートしています。SNSでの発信も凄く協力してくれています。

二宮  なるほど。成嶋さんはどうですか。

大島  成嶋さんはオリエール病(多発性内軟骨腫症)を患っており、最初は水泳をしていたが、測定の結果、ローイングにマッチングすることが分かり、3年前から始めました。自宅近くにトレーニング器具を設置し練習場所を作っています。家賃やトレーニング器具、栄養アドバイスなどの支援をしています。

二宮  もうこれは社会貢献事業ですね。それでは今後も事業を継続させるために、どういうビジョンをお持ちでしょうか。

大島  健康をキーワードにした時に、スポーツは欠かせないもの。障がいをもつ彼らの能力は凄い。(障がいをカバーすべく)上腕の力が圧倒的に強い人、視覚能力が高い人、聴力に秀でた人、記憶力に優れた人…。そんな彼らの能力をスポーツで発揮できる場を広げていき、そこで活躍するアスリートを見て、社会に出る気になれなかったり、病院やリハビリセンターに通っている人を勇気づけたいと思います。

二宮  なるほど。共生社会実現のため、スポーツの持つ力を社会に還元していかなければなりませんよね。では、最後にメッセージをお願いします。

大島  大切なことは、支援している選手にたくさんメッセージを発信してもらい、同じ障がいを持つ人のヒーロー、ヒロインになってもらうことです。多くの障がい者の方に「スポーツがしたい」と思ってもらうことです。

二宮  私も同感です。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

 〇…「アスリート応援プロジェクト」は、自らの情熱と可能性にかけてトレーニングを続ける障がい者アスリートを応援するプロジェクト。企業から参加を募り、アスリートの練習環境を整え、強化指定選手や代表選手として活躍するまでの「あと一歩」を支援している。

【アスリート応援プロジェクト2020 プロジェクト参加企業】
 酒井重工業
 東京エレクトロン
 インター・ビュー
 Tigerspike
 KMS
 KCJ GROUP
 ゼブラ
 サミット
 日鉄ソリューションズ
 ディーセントワーク
 大泉工場

 ◆大島 伸矢(おおしま・しんや) 1970年(昭45)4月10日生まれ、福岡県出身の49歳。大学卒業後に就職・起業を経験したのち、07年に能力の精密測定を事業化、知育面で活用するプライム・ラボを設立。14年には体育面で活用する一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)を設立し、理事長に就任。子供のスポーツ能力の測定や向上を支援し、障がい者アスリートのサポートも続けている。著書に「子どもが伸びる運命のスポーツとの出会い方」(枻出版社)がある。

 ◆二宮 清純(にのみや・せいじゅん) 1960年(昭35)2月25日生まれ、愛媛県出身の60歳。スポーツジャーナリスト。スポニチ紙面で「唯我独論」(毎週水曜日)を好評連載中。五輪、パラリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦などを世界各国で取材。各種メディアでノンフィクションやコラムを執筆、オピニオン活動を展開している。著書に「勝者の思考法」「スポーツ名勝負物語」「最強のプロ野球論」、「プロ野球『人生の選択』」がある。

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