“世界の”スミス総監督 神鋼V導く、攻撃スタイル再構築

[ 2018年12月16日 05:30 ]

ラグビートップリーグ決勝トーナメント兼日本選手権決勝   神戸製鋼55―5サントリー ( 2018年12月15日    秩父宮 )

<サントリー・神戸製鋼>スタンドから指示を出す神鋼・スミス総監督=右(撮影・吉田 剛)
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 神戸製鋼は今季、超攻撃的ラグビーに生まれ変わった。アシスタントコーチとしてニュージーランド代表を2度のW杯優勝に導き、クラブチームでも指導者として数々の栄冠を手にしたウェイン・スミス総監督(61)の手腕によるものだ。

 4月9日の来日初練習でした最初のメニューは、パスだった。「しっかりフォロースルーを取れ」「どちらの足が前でも投げられるようにしろ」。「両手を上げて取れ」。社会人はできて当然の基本を、春の間、徹底的に叩き込まれた。選手からは「高校時代よりパス練習をした」という声が上がった。

 世界的スターのSOカーターが「師」と慕う新しいボスが目指したのは、オールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)式の「全員が攻撃の選択肢になるラグビー」。サポート役が多かったプロップ、フッカーまでパスをつなぎ、さらに突破役も担った。誰が仕掛けるか分からない状況をつくり、今季ぶっちぎり首位の通算69トライを挙げた。

 スミス総監督はチーフス(ニュージーランド)の首脳陣だった時に、16年10月に他界した平尾GMと親交があった。ニュージーランドで、一緒に山に散策に出掛けたそうだ。

 今季、チームから再建を託されたのは、そういった縁があったから。ただし、就任の条件に、「神戸はラグビースタイルを変える気があるかどうかが重要だった」と振り返る。

 近年の神鋼は、セットプレーやサインプレーが突破口だった。それだけに頼らず、ボールをどんどん動かしてトライを取るラグビーができないなら断る考えだったそうだ。

 振り返れば、V7時代。決めごとあまりつくらない多彩な攻めで、トライを重ねた。“ミスターラグビー”がつくりあげた、「見ている人もやっている方も楽しい」攻撃的スタイルで返り咲いた日本一。表彰式、前川主将の手には、神戸市のクラブハウスに飾られている平尾GMの遺影があった。

 ◆ウェイン・スミス 1957年4月19日生まれ、ニュージーランド・プタルル出身の61歳。現役時代はSOでニュージーランド代表17キャップ。母国代表のHCを00年から2季務め、11、15年のW杯連覇はアシスタントコーチ(AC)。98、99年にクルセーダーズのHCとしてスーパーラグビー(SR)連覇。チーフスのACとしても12、13年にSRを制覇。イタリア代表のアドバイザーも務める。

 ≪カーター巧みなさばき≫神戸製鋼のSOダン・カーター(36=ニュージーランド)が巧みな試合さばきで主導権を握った。パスを多用し、キックは9本中7本に成功。後半27分に退くと、大きな拍手が送られた。「今週はチームから、優勝するために必要なことはあるかとよく聞かれた。やってきたことを信じれば大丈夫だと伝えた」。ワールドラグビーの年間最優秀選手賞を3度も獲得したスーパースターは飾ることを嫌う男だ。自伝本は酒、ケガなど失敗話が満載。その理由を「選手は華やかな部分ばかりじゃない。そこに至るまでにいろいろな物語がある。それを知ってほしいんだ」と力説した。練習は、いつも最後の1人になるまで蹴り続けた。真摯(しんし)な取り組みが有形無形の財産をもたらした。

 ◆ダン・カーター 1982年3月5日生まれ、ニュージーランド出身の36歳。6歳からラグビーを始め、各世代代表や州代表を経て03年6月のウェールズ戦で代表デビュー。W杯には03年大会から4大会連続で出場し、通算キャップは112。テストマッチ通算1598得点は歴代最多記録。ワールドラグビーの年間最優秀選手に3度選出。1メートル80、92キロ。ポジションはスタンドオフ。利き足は左。

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