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最後までメッシ頼み“マラドーナのポジション”で空回り

[ 2010年7月5日 13:46 ]

<アルゼンチン・ドイツ>アルゼンチンに大勝して準決勝進出を決め、喜ぶクローゼ(右)らドイツの選手たち

 【西野朗氏のスペシャル興奮観戦記 ドイツ4―0アルゼンチン】ドイツが先制すれば一方的になることもあるとは予想していた。ドイツは若手が下のカテゴリーで力をつけてA代表に上がってきて、ベテランとうまく融合している。今大会では1次リーグでセルビアに0―1で負けてはいるが、一番魅力的なサッカーをしている。

 ドイツもアルゼンチンもこの大会では従来のスタイルを覆していた。ドイツは堅守速攻型からポゼッションサッカーに、アルゼンチンは組織的なサッカーから個に頼るサッカーになった。

 ドイツでは伝統的に堅実さとゲルマン魂が重視されていた。そのため、どうしても内容は乏しくなり、見ていても面白くなかった。このままでは行き詰まると感じたのだろう。もっと時代に合ったサッカーに脱却しようと協会全体で取り組んだことでスタイルが変わった。

 若手の育成に力を注いだ結果、タイプの違う選手が出てくるようになった。技術的に優れ、局面を打開できる、個人戦術、戦術眼にたけている選手だ。エジルやミュラーらはシステムの中での自分の役割をよく理解している。まだ頼りないところもあるが、技術面ではいいものを持っているし、ベテランがうまくサポートしている。システムと配置とキャスティングがピタリと合っていると言ってもいいだろう。

 それにしても20歳そこそこの選手を使いつづけるのには勇気がいる。開幕前にバラックが故障したこともあって思い切った切り替えができたのではないかと思う。初戦でオーストラリアに4―0で大勝して波に乗れたことも大きいし、点を取って自信を付けた面もある。

 アルゼンチンは最後までメッシ頼みから脱却できなかった。バルセロナの時とは違って、メッシはボランチのラインまで戻ってパスをもらい、そこから展開してゴール前まで行った。マラドーナ監督が現役時代の自分の役割を託している感じがしたが、もう少し相手が嫌がるところに位置して仕掛けないと決定的な仕事はできない。メッシを生かす選手もいなかったし、メッシが全部自分でやろうとして空回りしていた。メッシ、イグアイン、テベスと前線にドイツよりグレードの高い選手がいたが、結局は融合できずチームとして機能しなかった。

 4強が出そろったが、優勝争いは勢いからドイツに分があると思う。スペインとはタイプが似ているが、戦術的に確立されているし、自分たちのスタイルを持っている。ボールをしっかりポゼッションし、有効なパスでゴールへ向かうチームは私も理想としている。こういうチームが勝つべきだと思う。

 ただ、個人的には大会前からオランダに優勝してほしいと思っていた。技術的にも戦術的にもフィジカル的にも優れていてダイナミックなサッカーをするが、W杯では一度も優勝していない。オランダが一度世界を制覇することが、世界のサッカー界にとってはいいことだと思う。(G大阪監督)

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2010年7月5日のニュース