地方発の小品に味わい深さ

[ 2016年11月25日 09:40 ]

8月に「ゆずの葉ゆれて」初日舞台あいさつを行った(左から)中村美沙、辻本祐樹、松原智恵子、山時聡真
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】今年も映画賞の発表が始まった。スポニチの担当記者も毎日映画コンクールとブルーリボン賞という2つの主催事業があり、あれこれと頭を悩ませる季節である。

 賞は結果として付いてくるもの。賞獲りを意識して作られた映画も無論あるのだろうが、そうじゃない方が数としては圧倒的に多いはずだ。その中から何が選ばれ、2016年を代表する1本として歴史に刻まれるか。選ぶ側も襟を正して臨む。

 それにしても今年も実に多くの作品が作られた。本数が多すぎて、公開待ちが続き、結局は“お蔵入り”という憂き目に遭う映画も少なくない。早朝の1回だけ、あるいは深夜の1回だけ…それでも「上映できるだけ幸せ」と感じている製作者や監督がいかに多いことか。悪循環はどこかで断ち切らなければならないが、業界は有効な手を打てないでいる。

 そんな中でも志のある作品はやはり評判に上がってくる。今年は地方発の映画が目を引いた。例えば8月20日に封切られた「ゆずの葉ゆれて」(監督神園浩司)という1本。女優松原智恵子(71)の芸能生活55周年記念作だ。

 61年のデビュー以来、「夕笛」など120本以上の映画で日活黄金期を支えたスター女優のメモリアル作。半世紀以上も連れ添った老夫婦の絆と別れを少年の成長物語を絡めて描いた感動作で、津川雅彦(76)らが共演。ロケが行われた鹿児島の人々が全面協力し、現在も全国各地を巡回上映中だ。もちろん鹿児島ではロングランが続く。松原は「人を思いやる気持ちにあふれた映画。それを受け止めて頂ければうれしい」としみじみ語っている。

 「家族の日」も忘れてはならない。NHK出身の演出家で、大河ドラマ「武田信玄」や朝の連続テレビ小説「はね駒」など名作を数多く手掛けてきた大森青児氏(66)の第1回監督映画だ。

 故郷の岡山県高梁市を舞台に、東京から越してきた家族のひと夏を描いた人間ドラマ。6月の岡山を皮切りに、大阪、京都、兵庫と回り、愛知、そして11月19日から東京でのロードショーが始まった。埼玉での上映も決まっている。

 資金集めからエキストラの調達まで、こちらも故郷の人々が支援。出演者も大森監督が直接交渉し、伊原剛志(52)、田中美里(39)、岸部一徳(69)ら“大森組”の面々が参集した。大森監督は自ら手掛けた「武田信玄」を引き合いに出し、「全国制覇が出来なかった信玄に代わって、僕はやります」と47都道府県での公開を誓い、きょうも飛び回っている。大手の映画に主演しながら、宣伝への協力を渋る勘違い俳優もいると聞く。なんとも無責任。作品への愛情がないのだろう。当然、映画は当たらない。そんな輩には、地道に奮闘する人々のツメのあかでも煎じて飲ませたいものだ。(編集委員)

 ◆佐藤 雅昭(さとう・まさあき)北海道生まれ。1983年スポニチ入社。長く映画を担当。

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