平幹二朗さんを悼む…高い美意識で貫かれた揺るがぬ演技

[ 2016年10月25日 07:56 ]

平幹二朗さん死去

亡くなった俳優の平幹二朗さん
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 急死の報を聞いてもにわかには信じられなかった。つい先月、元気な舞台姿を見たばかりだ。東京・世田谷のシアタートラムでのニコラス・ライト作、森新太郎演出の「クレシダ」。シェークスピアが活躍したエリザベス朝時代、女性役は少年が演じていたという、日本の歌舞伎とよく似た事情を背景に、若手俳優台頭と対立するような形で平幹が圧倒的な力を発揮していた。

 平幹の舞台は常に堂々としている。容姿が端正なこともある。セリフが朗々としていることもある。どんな低い声でも聞き取りづらいことは一度もなかった。その演技は高い美意識で貫かれていて揺るぐことはなかった。その意味で平幹という役者はまぎれもなく日本の誇る第一級の舞台俳優であった。

 出身は老舗劇団、俳優座である。2度目の受験で俳優座養成所に合格し「ハムレット」などの出演で頭角を現したが、すぐ先輩にはほぼ同年齢の仲代達矢がいた。常にその後塵(こうじん)を拝していたのでは役者としてうだつがあがらないと見極めたのだろうか。

 在団中に劇団四季の浅利慶太演出「アンドロマック」出演が一つのきっかけとなり、その2年後の68年に退団。浅利演出の「ハムレット」などに主演したあと、アングラ演劇から商業演劇に鞍替えして脚光を浴びてきた蜷川幸雄演出作品などに立て続けに出て演劇界で揺るぎない地位を築いた。舞台俳優の条件は一声、二顔、三姿と俗に言われるが、平幹は声に深みと色気があり、重厚でいて明晰(めいせき)。長身で見栄えもよく、出てくるとすぐさま舞台空間を独り占めする存在感が際立っていた。私の知る限りでは滝沢修以来の舞台役者だったと思う。

 忘れられない作品は多々あるが蜷川演出のギリシャ悲劇「王女メディア」、同じく蜷川演出で太地喜和子と共演した「近松心中物語」同「NINAGAWAマクベス」のマクベス、浅利演出の「鹿鳴館」は特に素晴らしかった。あの先月の元気な舞台姿を思い出すにつけ、その死はとても悔しくてならない。合掌。(スポニチOB、演劇評論家 木村 隆)

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