【内田雅也の追球】ヒロシに教わる原点

[ 2024年5月30日 08:00 ]

交流戦   阪神2-8日本ハム ( 2024年5月29日    甲子園 )

<神・日>試合前練習の時間から声援に応える日本ハム・新庄監督(撮影・平嶋 理子)
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 試合前、日本ハム監督・新庄剛志は吉田浩と会っていた。阪神に同じ高校出で同期入団した親友である。「ヒロシが来てるんですよ」と関係者出入り口まで出向いた。3年前、監督に就任した新庄は吉田をコーチに招こうとした。プロ6年目で1軍初出場した苦労人を「メンタル面、モチベーションの高め方など、教わる部分は多い」と話していた。

 1990年代、「暗黒時代」のある日、新庄が試合前「やる気出ないなあ」とこぼすと、吉田は「何言ってんの?」とたしなめた。「プロの、1軍の、甲子園だよ。お客さんもたくさん来ている。すごいこと、幸せじゃないか!」。新庄は「目が覚めた」そうだ。原点を思い起こしたのだ。

 2軍のころ、新庄は甲子園のすぐそばにあった独身寮「虎風荘」の屋上でナイター照明を見つめながらバットを振った。「いつか、あそこで活躍するんだ」とヒーローを夢見た原点である。

 この日、試合前のメンバー交換で、背中に「63」、手に赤いリストバンドを巻き、阪神のユニホームで現れた。四方に頭を下げた。ファンサービスもあろうが、「自分を育ててくれた」という甲子園や阪神への郷愁と敬意がこもっていた。

 試合は阪神の完敗。6点差敗戦は今季最大(2度目)だった。日本ハムの選手ばかりがはつらつと駆け回っていた。2年に1度、3試合だけの甲子園が元気を呼んでいるかのようだった。

 低調長引く阪神打線は相変わらず好機に1本が出ない。チョーク(窒息)状態が続き、息苦しい。試合後、そう言うと、監督・岡田彰布は「こっちの方が息苦しいわ」と苦い顔で笑った。

 3回裏1死満塁は3、4番が凡退。4回裏2死一、三塁はハーフスイングの三振。5回裏無死満塁も犠飛での1点がやっとだった。明らかに不調だった伊藤大海に5回まで96球を投げさせたが、6安打、4四球で2点がやっとだった。

 スタンドは今季2位タイの4万2608人で埋まり、12球団最速で100万人動員に達した。ところが銀傘に響くのはため息ばかりだった。8回には多くのファンが席を立ち、通路に向かった。
 むろん技術や工夫は必要だ。それ以上に、かつて新庄が「目が覚めた」という原点を思い起こしたい。満員の聖地でできる喜びをプレーにつなげたい。 =敬称略= (編集委員)

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