エ軍禁止薬物の闇 あのナイスガイたちが…取材を通して感じた“経験したことのない驚き”

[ 2022年2月18日 15:58 ]

エリク・ケイ氏(AP)
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 驚いた。信じられなかった。ここ数日、AP通信など複数の米メディアの記事を読み進めると、過去に取材させてもらったことがある選手の名前が次々と「事件」に関与した疑いのある人物として登場したからだ。

 19年7月にエンゼルスの先発左腕だったタイラー・スカッグス氏が遠征先のホテルで医療用麻薬オキシコドンとアルコールを摂取後、吐しゃ物で窒息死した。この事件を巡り、元球団広報のエリク・ケイ氏の責任を問う15日の裁判で、マット・ハービー投手(32=オリオールズからFA)、キャム・ベドロジャン投手(30=フィリーズからFA)、C・J・クローン内野手(32=ロッキーズ)、マイク・モリン元投手(30)がケイ氏から医療用麻薬の提供を受けたと証言。さらにブレーク・パーカー投手(36=ガーディアンズからFA)も涙を流しながら同様の事実を告白した。19年に1シーズンだけエ軍でプレーしたハービーは同年4月にクラブハウスやベンチでスカッグスと医療用麻薬を共有したと述べた。17日(日本時間18日)にはケイ氏に有罪判決が下された。

 18年からエンゼルス・大谷の番記者として米国出張し、初めてメジャーリーグを取材。コロナ禍以前の18年、19年、20年のキャンプ中盤まではメディアがクラブハウスに入ることができたため、大谷以外の選手を取材する機会が今より多かった。「シーズンオフに日本旅行に行きたい」とよく話していたベドロジャンはナイスガイだったので特に印象に残っている。試合前後に「いくつか質問をしたいのですが時間はありますか?」と拙い英語で話しかけると、いつも椅子から立ち上がって両手を前に組み、こちらが恐縮するほど丁寧に応じてくれた。パーカーもナイスガイだった。ツインズ移籍後の19年にクラブハウスに行くと、こちらを覚えていてくれたようで、向こうから近寄ってきて、丁寧に取材に応じてくれた。

 ハービーはクールで口数も多くない印象だったが当時は仕方ないと思っていた。19年は不振で結果が出ず、滅多打ちされた登板後はクラブハウスで呆然としていたこともあった。いつも私服はオシャレで派手だったが、目に覇気が無いように見えたのが正直な印象だった。米メディアによると、ハービーは裁判で「野球において、グラウンドに留まるために、できることは全てやる」と語ったという。入れ替わりの激しい世界で危機感を覚えていたのかもしれない。

 広報と記者という間柄のため、一番会話したのはケイ氏かもしれない。特に大谷のメジャー1年目の18年は取材現場をよく仕切っていた。陽気な性格で取材の待ち時間にはマイクを使って「オ、オ、オ、オオタニッ♪」とラップ調で歌って日本メディアの笑いを誘っていたこともあった。覚えている限り、18年は問題なかったが、19年から表情が曇りがちになり、血色も悪かった。休むことが多く、実際に体調が悪く、家族にも問題を抱えているなどと周囲から理由を聞いていた。

 医療用麻薬オキシコドンは負傷箇所の痛みを和らげたり、精神的にリラックスできる効果(loosey-goosey)があるという。裁判では、ハービーからメジャーリーガーにとってオキシコドンの使用は「一般的」という衝撃発言も飛び出した。いかなる理由も薬物に手を出した言い訳にはならないが、闇は想像以上に深い。

 選手と球団広報が絡んだスキャンダル。取材現場とはいえ、身近で起こった事件に経験したことのない驚きを覚えている。(記者コラム・柳原 直之)

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