【内田雅也の追球】キャッチボールの技と心

[ 2021年2月8日 08:00 ]

阪神 紅白戦   紅組3-7白組 ※特別ルール ( 2021年2月7日    宜野座 )

<虎報用・阪神>紅白戦後、特守で送球を繰り返した北條
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 歴代最多11度の日本シリーズ優勝を果たした元巨人監督、川上哲治は「勝負の鬼」と呼ばれた。1965(昭和40)~73年のV9(9年連続日本一)がさん然と輝く。

 その川上が<いまふり返ってみると、キャッチボールがV9のチームプレーを支えた、という思いが強い>と81年に出した著書『ベースボールのすべて』(文藝春秋)に記している。

 監督就任の61年、<はじめにやったことはキャッチボールを見直し、正しく行わせることだった>。マスコミの評判は悪く「プロなのにいまさらキャッチボールか」と書かれた。それでも<ひたすら信じるところに向かって突っ走った>。

 優勝を目標に掲げる阪神である。「鬼」に学びたい。課題は誰の目にも明らかで、守備力の強化にある。昨年のチーム投手成績を見れば、防御率は阪神3・35、優勝した巨人3・34と変わらない。自責点は阪神393、巨人394だ。ところが失点は阪神460、巨人421と39点差がつく。阪神は失策絡みの非自責点が67点もある。これが優勝と2位の差である。

 7日の紅白戦はその点で残念な内容だった。両軍で守備のミスが相次いだ。失策は3個で両軍の失点10のうち非自責点が3ある。スコアブックを見直せば、記録に残らないミスも5個ある。計8個のミスのうち、捕球ミス(後逸、ゴロの弾き)が3個で、残り5個は悪送球である。問題はキャッチボールなのだ。

 守備力強化のために招いた臨時コーチ・川相昌弘も分かっているはずである。悪送球の技術的な原因も承知しているはずだ。送球にいたる以前の捕球体勢や足の運びの問題もあるだろう。

 紅白戦が終わると、サブグラウンドで野手陣は午後6時前までゴロ捕球・送球を繰り返した。こんな特守も必要である。ちなみに「特守」も川上の造語である。

 ただ、やはり毎日行うキャッチボールを大切にしたい。プロだからこそ意識高くやりたい。

 紅白戦では、走者がいながら、捕手の返球で二遊間がバックアップに動かないことがあった。

 川上はキャッチボールで技術以上に精神も重んじた。<チームプレーの精神を学ぶ。相手の捕りやすいところへ投げてやる。これはチームプレーの第一歩なのだから>。

 相手のミスを防ごうとするバックアップは、キャッチボールの心でもある。 =敬称略= (編集委員)

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2021年2月8日のニュース