【宮城】仙台育英、東北球史に残るチーム一体の美技 早実相手に必殺「一発けん制」

[ 2018年6月16日 08:00 ]

第97回大会準決勝   仙台育英7―0早実 ( 2015年8月19日    甲子園 )

<早実・仙台育英>3回裏2死満塁、仙台育英・佐藤世のけん制で二走・山田(右)はタッチアウト
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 【スポニチ社員が選ぶわが故郷のベストゲーム】この夏、全国高校野球選手権大会は100回目。ふるさとチームの甲子園での活躍に熱くなった記憶を、北北海道から沖縄まで、今夏の代表校数と同じ56人のスポニチ社員がつづります。

 その日。私は甲子園のしゃく熱のカメラマン席でも、蒸し風呂のような記者席でもなく、初めて仙台育英の一塁側アルプス席に1人のOBとして足を踏み入れていた。

 こんなに浜風って気持ちよかったんだ――。仕事中は決して感じることがなかった甲子園の風。しかし、そんな雰囲気に浸ったのもつかの間。プレーボールがかかると、早実の1年生スラッガー清宮見たさに埋め尽くされていたスタンドが、怪物の一振り一振りに沸き上がる。我が母校にとっては敵地でしかなかった。

 それなのに、仙台育英ナインは冷静だった。3回2死満塁の守備、エース佐藤世が忍者のように体を回転させた瞬間、二塁塁審の右腕が力強く上がり「アウト」。後にネット上でも話題になった振り向きざまの「一発けん制」だ。

 試合後のコメントで知ったが、遊撃手・平沢の合図を捕手の郡司を介してマウンドの佐藤世へ伝えられるサインプレー。佐藤世の体は打者を向いていて走者無関心を装っている。走者が油断してリードが大きくなったとこでの必殺技だった。

 私のようなはずかしがり屋でお人好しが多い?東北人は基本的に大舞台には弱いし、周りの雰囲気にものまれやすい。だから関東や関西の人たちになめられないようにお国言葉も封印することも。でも見かけの強がりだけで世間を渡るのは無理だということをこのプレーは教えてくれた。

 大事なのは普段通り、練習通り。学校のグラウンドでやってきたことと同じことを甲子園の大舞台でやることは並の精神力でもできないが、それを越える練習量と「いつかやってやろう」という準備さえしていればここ一番で発揮できる。

 この試合を見るまで私の中でのベストゲームはみちのくの剛腕・大越基を擁して準優勝した89年帝京との決勝戦だった。4日連続登板も含めこの大会、実に838球を投げた大越が、閉会式後マウンドに行ってズボンの後ろポケットに砂をふた握り分押し込んだシーン、今でも脳裏に焼き付いている。

 だが、チーム一体の美技もまた、東北球界の歴史に残り、私に悲願の「大旗の白河の関越え」以上の価値があると感じさせた一戦だった。

 ◆高橋 雄二(東京本社写真部)仙台市出身。87年仙台育英高卒、帰宅部。大学4年の10月からスポニチ仙台支局で働き、2000年から東京写真部。

 <宮城データ>

夏の出場 65回(通算69勝65敗)

最高成績 準優勝3回(仙台育英=1989、2015年、東北=2003年)

最多出場 仙台育英(26)

最多勝利=仙台育英(33)

出場経験=13校、うち未勝利8校

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