仙台育英・須江監督が東日本大震災で感じた言葉の力 勇気あるスピーチに感銘「思いは発信しないと」

[ 2022年8月27日 07:00 ]

仙台育英・須江監督独占インタビュー(3)

甲子園優勝のウイニングボールを前にインタビューに応える仙台育英・須江監督
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 今夏に甲子園大会優勝を果たし、全国に感動を届けた仙台育英(宮城)の須江航監督(39)の単独インタビューは、2011年3月11日に発生した東日本大震災が自身に与えた影響などについて。言葉が持つパワーを実感したことで指導者としての幅を広げ、春夏を通じて東北勢初の悲願を達成するチームづくりにもつながった。(聞き手・柳内 遼平)

 ――決勝戦後のスピーチでは涙を流しながら高校生を思いやり、熱いメッセージを送った。涙もろい方か?
 「わりと泣く方だと思います。でも、いつも謝っている気がします。(20年の)3月11日に選抜が中止になりました。その次に夏の甲子園が5月20日に中止が決まり、その時は受け入れるしかなかった。大人が何もしてあげられず(選手に)申し訳ないと思い、謝って泣きました。本当に無力で。コロナが起きてからの生徒の頑張りは本当に凄くて、以前にも増して、高校生をリスペクトするようになりました。本当に自分が高校生だったら、どう行動していたか…。中止だらけの世の中で頑張るのはとても大変。それでも頑張るから凄いと思います」

 ――ここ数年は全国がコロナ禍に苦しんでいるが、東北は2011年3月11日に東日本大震災が発生した。
 「当時は中学校の教員でしたが、しばらくは部活をやれる状況ではなかったです。自分は宮城県中体連の運営委員会の出席者でしたが、宮城県は全国大会の予選などを辞退する方向となりました。市の大会で終わらせるということでほぼ決まっていたのですが、ある日の会議で“頑張ろうと思っている子たちがいるのに、その声も聞かずに決めていいのか?”と、ある学校の卓球部の先生が涙ながらに訴えていました。その勇気ある行動とスピーチが忘れられなくて。凄い先生でした」

 ――結局、辞退になったのか?
 「それで覆りました。99%、無理だと言われたことが、あの先生の熱烈なスピーチによって会場の雰囲気ががらりと変わり、“そうだ、そうだ”という感じになりました」

 ――まさに言葉の力。
 「そうです。当時28歳だった自分は、ただただ涙を流して拍手することしかできなかった。それから10年以上たって僕も年齢を重ね、拍手するだけではいけない年です。自分の思いや考えは、どんどん発信しないといけないと思っています」

 ――言葉と同様に近年は情報も重要になった。
 「情報は5秒あれば手にできると思うので、だからこそ、自分のことを理解させることが大事だと思っています。数値的なもので言えば筋肉量とか、柔軟性とか、自分の成長曲線とかを理解させ、このトレーニングが正しいのかとか、そういうのを本人たちが気づくようにしてきました。2010年ぐらいから情熱、根性の野球だけでは無理だと分かり、いろいろな人の元に伺いました。その頃からアナリストが世の中に出てきて、早かったのは野球以外の競技でした。野球より他競技の方が柔軟性があって変化を恐れない。だから、競技を問わずにいろいろな方にお会いしました。いろいろな方に会ったことで、ロジカルにやることの大切さと、ロジカルにはできないこと、人間の生々しさのバランスがとても大事だと思いました」

 ――読書はするか?
 「1カ月に1、2冊しか読まないですけど、なんでも読みます。小説も自己啓発も読みますし、子供が小さいので絵本も。絵本は気付きがあります。チーム運営は優しさが必要だと思っていて、優しさは甘えとかそういうことではなく、想像力だと思っています。想像力がある子は優しいです。この子は疲れているなとか、この子は機嫌が悪いけど、嫌なことがあったのかなとか、優しさがグラウンドの中にあってほしいと思います。そういうことは絵本が教えてくれると思っています。この世代はやっていないですけど、高校球児に対して幼稚園や小学生らが対象の絵本を読んだこともあります」

 ――お互いを思う心の集合体が、今夏の甲子園大会を制したような強いチームとなる。
 「そうですね。選手同士は、特に厳しさや緊張感と同等に、想像力からくる優しさが、日々の活動の中にあってほしいと思っています」=終わり=

 ◇須江 航(すえ・わたる)1983年(昭58)4月9日生まれ、さいたま市出身の39歳。仙台育英では2年時から学生コーチを務め、3年時に春夏の甲子園に出場。八戸大(現八戸学院大)でも学生コーチを務めた。06年から仙台育英の系列の秀光中軟式野球部監督を務め、14年に全国大会優勝。18年1月から仙台育英監督に就任し、今夏を含めて5度の甲子園出場に導く。情報科教諭。

 ▽2011年の宮城県内のスポーツ界 高校では硬式野球、軟式野球、馬術、ヨットなどが春季県大会を中止。宮城開催の春季高校野球東北大会も、球場の安全確保が困難なため開催が見送られた。他に、仙台六大学リーグは当初の予定を2週間遅らせ、2回戦制総当たりの勝率制で実施。プロ野球では楽天が本拠地・Kスタ宮城(現楽天生命パーク)の損壊により、主催6試合を甲子園、ほっと神戸で開催。本拠地開幕戦は4月29日となった。J1仙台(当時)はチームを一時解散。震災から17日後に千葉で練習を再開し、4月23日の再開初戦に臨んだ。

 ▽仙台育英初優勝への道のり 初戦となった2回戦・鳥取商に5投手の完封リレーで10―0と快勝。3回戦・明秀学園日立は7回に3得点し5―4で逆転勝ちした。準々決勝・愛工大名電は序盤に5得点し押し切った。準決勝・聖光学院との東北勢対決は2回に一挙11得点し18―4の大勝。決勝・下関国際は岩崎生弥(3年)の満塁弾などで8―1と快勝し、東北勢初優勝を果たした。須江監督は優勝インタビューで「宮城の皆さん、東北の皆さん、おめでとうございます!」「青春って凄く密」などの名言を数多く残して注目を集めた。

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