トライアスロン・秦由加子の義足開発 ブリヂストン わずか数ミリのソールに込めたタイヤ技術

[ 2021年8月29日 05:30 ]

義足用ソールの開発に携わったブリヂストンの小平さん
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 【支える人(5)】トライアスロン女子の秦由加子のラン用義足ソールは、タイヤさながらだ。サポートするブリヂストンの提案で、17年からはタイヤ技術を生かしたゴムソールを使用。開発に携わった同社の小平美帆さんは「パラスポーツ共通の課題として、使いたい用具と現実のギャップがあった」と振り返った。

 義足選手にとって、転倒を回避する上でも重心の乗った接地が重要だが、秦は開発前まで市販シューズのソールを切り貼りして使っていた。小平さんは、アスファルトや石畳など、競技環境が会場ごとに異なるトライアスロンの競技特性に着目。「世界中の道路で走るタイヤを作っている弊社の接地の科学を生かせると思いました」という。

 雨天でも滑らないグリップ力、軽量化、耐久性、耐摩耗性などの要望を受けて改良を重ねた。ゴルフシューズなどの開発実績はあったが、義足ソールは「ゼロベースの手探り」から。タイヤ同様にデータ計測で接地の圧力を可視化すると、義足のバネがたわむように重心が前後することや、爪先に高い圧がかかっていることが分かった。遠征先の気温や路面状況も調査し、最適な溝と素材の配合で世界に一つのソールが完成した。

 小平さんは「義足で走ること」を理解するために義肢装具士やランナーに話を聞き、時には秦の海外遠征先にも足を運んだ。今も定期的に連絡を取り合う秦の「安心して走れるようになりました」という声に、「できることは何か、真摯(しんし)に取り組みました。私にとってもありがたい経験」と充実感がにじむ。「たったこの部分だけなんですけど」。義足の下の厚さ数ミリのソールには、技術とともに熱い思いが詰まっている。

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