“博士号ジャンパー”戸辺直人 五輪金へあと5センチ高く跳べ!「2メートル40なら見えてくる」

[ 2020年2月25日 10:00 ]

加藤綾子アナウンサーの前で跳ぶ戸辺直人
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 【カトパン突撃!東京五輪伝説の胎動】日本が誇る“博士号ジャンパー”走り高跳びの戸辺直人(27=JAL)は自身が持つ日本記録を上回る2メートル40が目標だ。筑波大大学院で競技を科学的に研究しながら実践でデータ収集。「いかに跳ぶか」を一日中考え続けている。加藤綾子アナウンサー(34)とのクロストークでは助走の秘密などを披露。金メダルを手に入れるため“二刀流”でバネをためている。

 ――1メートル94の身長で跳べるのは凄いですね。名前も「とべ!」って、走り高跳びのために生まれてきたみたい。運命を感じたりしませんか?
 「僕、仕事もJALです!航空会社に入社しましたし、何から何まで本当にそうですね(笑い)」

 ――リオ五輪は直前で代表の座を逃して悔しい思いをされた。この4年はどのように過ごしたんですか?
 「あの時は落ち込みました。だんだん調子も上がってきて去年は日本記録を出したり、世界ランク1位にもなった。何とかやってこられたかなと思います。東京五輪までは5カ月ですし、しっかりトレーニングします」

 ――2メートル35は日本記録ですけど、街中で「この高さは跳べる」と思ったりしますか?
 「地下鉄の駅を歩いていて看板がぶら下がっていると、これなら跳べると思いますね。職業病ですね」

 ――試合では、助走を9歩から6歩に変更。訳があったのですか?
 「海外では高跳びのエリアが狭かったりする。9歩も取れない場合があって6歩でやることに決めた。3歩分、少なくなったので加速するため頑張って走らないといけない。難しさはありますね」

 ――試合当日の調整は大変ですか?
 「地面の材質が競技場で全く違う。硬いと踏み切りではじかれ気味になるので“しっかり押し込もう”とか思ったりします。風向きもあるし、何本か跳んで調整します」

 ――跳ぶ時に足に負担はかかるんですか?
 「1トンほどの重さがかかると言われてます。膝や足首をケガしやすい。試合では10本くらい跳ぶ。練習では1日20本。頻度も週2回やるかどうか。実は試合前はあまり動かないんですよ」

 ――えっ、そんなものなんですか?
 「幅跳びとか高跳びは練習をせずにバネをためる。日常生活でも寝てる人が多い。休むと跳べるような気がするんですよ(笑い)」

 ――昨年ドーハの世界陸上は予選敗退。環境の影響あった?
 「競技場の外は暑かったのですが、中は寒いくらい。その気温差もあって厳しかった。室内は風がなく、観客席が近かったりする。僕はあまり気にしない方ですね」

 ――観客の声援は?
 「跳躍選手が観客に手拍子を求めるのも戦略の一つ。ここが勝負どころという時にパワーをもらうためにやる。調子が悪い時はバーの高さが低い時からあおったりします」

 ――気持ちを乗せてもらう作戦なんですね。東京の目標はもう決めてるんですか?
 「2メートル40。本番で跳べたら金メダルも見えてくると思います。あと5センチ。本当に総合力。空中でバーをかわすことと踏み切りの技術に改善の余地がある。うまくいけば跳べる」

 ――バレーボールのネットは2メートル43ですけど、あの高さを跳ぶんですね(笑い)。
 「女子用(2メートル24)はクリアしたので、男子用を越えたいです(笑い)」

 ――練習で跳んだことは?
 「高跳びは練習では不思議と跳べないものなんです。2メートル35なら練習で2メートル25を跳べたら良い方です。本気で跳びにいっても難しい。練習ではマイナス10センチから15センチが目安ですね」

 ――では2メートル35を跳べた時は「え~っ!!」って感じだったんですか?
 「試合であの高さを跳ぼうと思ったのは初めて。バーの見え方も、その日の自分の調子で違って見える。跳べる気がすると思ったんですよ」

 ――良いジャンプとは?
 「生まれて初めて跳んだ時に無重力感があった。ジェットコースターに乗って下り始める時にフワッとする感覚。今でも感じる。それが良いなと思ってハマったんですよ」

 ――いいなあ。フワッて…私、全然、体感したことないです。必死に走って行って、ぶつかってバーを落とすみたいな。ハハハハ。

 ――大学院で研究したことで高跳びを分析することはできた?
 「助走はどんな走り方でもよくて競技に多様性がある。あまり研究をされていなかったので初めて分かることがあった。それを技術や普段のトレーニングに生かしてます」

 ――各選手で独自のスタイルがある?
 「過去の五輪や世界選手権を見た時に、いろんなスタイルがあってどれを参考にしたらいいか分からなくなった。それで自然に研究することにしました」

 ――競技と研究の毎日ですけど大変では?
 「研究と実践は別物。練習して疲れたなと思ったら研究してという感じ。それが楽しいんです。記録も13センチ伸びました」

 ――本当に好きなんですね。息抜きは何をしてるんですか?
 「漫画のワンピースは単行本で買って読みます。ゾロが好き。国際大会で外国人選手と相部屋になった時のとっかかりにはワンピース。世界中の人が読んでる。今までの経験ではその話をすれば大丈夫みたいな(笑い)」

 ――試合前に音楽を聴く?
 「高跳びだけの試合では自分の時に好きな曲を流すことができる。Perfumeをかけることが多い。向こうの人の受けがいい」

 ――クールジャパンですね(笑い)。海外遠征では現地でどう過ごすんですか?
 「疲労を残さないためホテルにこもることが多い。ドイツやイタリアは好きですね」

 ――出歩かない?
 「iPhoneでその国の音楽のトップチャートを探して知らない曲を聴く。それで、その土地を感じるんですよ(笑い)」

 ――何だかもったいないですね(笑い)。

 ◆戸辺 直人(とべ・なおと)1992年(平4)3月31日生まれ、千葉県出身の27歳。野田二中の3年時に全日本中学陸上選手権で1メートル94で優勝。専大松戸高3年の新潟国体で高校新記録となる2メートル23で優勝。筑波大2年の時には日本陸上選手権で2メートル22で初優勝した。19年2月にドイツで行われた室内競技大会で自己ベストの2メートル35で優勝。1メートル94。

≪頭良くて学者肌「へ~っ」と思うことがたくさん≫
【取材後記】
 頭が良くて学者肌で、いい意味でアスリートっぽくない。競技を理論的に順序立てて説明してくれるので「へ~っ」と思うことがたくさんありました。
 写真撮影の時のちょっとした跳躍も凄く滑らか。素人のような力みがなくて奇麗でした。良いジャンプは「滞空時間が長く感じる」と話していたのも納得です。
 練習では各選手が自身の記録よりも10センチほど低い結果になるという話も面白かったです。それが本番では跳べるようになる。
 金メダルに手が届きそうな記録まで、あと5センチ。自国開催の東京五輪では良いバネをためられそう。波に乗れる良い風が吹くよう、 手拍子を送りたいと思います。 (加藤 綾子)

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