365日 あの頃ヒット曲ランキング 7月

【1979年7月】おもいで酒/“もし、あの時…” 小林幸子 B面から変わった歌手人生

[ 2011年7月23日 06:00 ]

 ★79年7月ランキング★
1 きみの朝/岸田智史
2 おもいで酒/小林幸子
3 いとしのエリー/サザンオールスターズ
4 関白宣言/さだまさし
5 カリフォルニア・コネクション/水谷豊
6 銀河鉄道999/ゴダイゴ
7 波乗りパイレーツ/ピンク・レディー
8 OH!ギャル/沢田研二
9 愛の嵐/山口百恵
10 ホップ、ステップ、ジャンプ/西城秀樹
注目アメリカン・フィーリング/サーカス
※ランキングは当時のレコード売り上げ、有線放送、ラジオ、テレビのベストテン番組などの順位を参考に、話題性を加味してスポニチアネックスが独自に決定。

【おもいで酒/小林幸子】

 人生に“もし、あの時…”というのは、考えても仕方のないことが多いが、「ウソツキ鴎」で9歳の時にデビューした小林幸子にとって、16年目に出会った「おもいで酒」は、“もし、あの時…”という言葉があてはまる出来事の連続だった。

 レコード売り上げ138万枚を記録した、大ヒット曲は当初B面だった。しかも、適当な曲がなく、大阪・朝日放送の部長だった高田直和が作詞、クラシックのフルート奏者・梅谷忠洋が作曲した作品が、たまたま事務所に持ち込まれていたのを軽い気持ちで採用したものだった。

 レコーディング時、小林はひどい風邪をひいており、録音した歌声はひどかった。「どうせB面だし、誰も聴かないし、どうせ私のために書いてくれたわけでもないし…」。体調の悪さもあってあまり気分は乗らなかった。日が経って聞き直してみると、いくらなんでもひどかった。さすがに歌い直すことにして、再度レコーディングを行った。

 A面だった「六時、七時、八時あなたは…」はドラマの主題歌で、ヒット曲に恵まれなかった小林はこれに賭ける気持ちは強かったが、なんとヒットの兆しを見せたのは、B面の方だった。関西方面の有線放送からリクエストが相次ぎ、発売から1カ月でベストテンに入るほど。気を良くしたレコード会社は、A面とB面を逆にして、ジャケットも替えて再発売することを決定。全国キャンペーンを展開する企画を立てた。

 が、小林はキャンペーンを嫌がった。これまで何度も地道にキャンペーンをしてきたが、成功した試しがなかった。歌うこと自体に情熱が薄れかけていた時期でもあったのが、その気持ちを強くした。

 静岡・伊東の温泉旅館での長期営業公演中、一緒に出ていたダンサーに言われた。「どうせ歌を辞めるなら、キャンペーンやって辞める口実にしたら」。それもそうかと思い、キャンペーンへ出ると、行く先々で大盛況。これは違うと思いだした頃、有線では1位になり、レコード売り上げは赤丸急上昇。今まで見向きもされなかった歌番組からは相次いで声がかかった。

 7月19日にはTBS「ザ・ベストテン」に7位で初登場、同23日付のオリコンチャートでは1位の座に着いた。テレビのオーディション番組で5週連続勝ち抜き、その才能を認めてデビューのレールを敷いた作曲家・古賀政男の一周忌にあたる25日を前に、何よりの報告ができることを喜んだ。

 この年、紅白歌合戦に初出場。ステージといえば、キャバレーやクラブ、地方営業と相場が決まっていた小林にとって夢のような話だった。「出場する歌手同士が楽屋で衣装の話を楽しそうにしているのを、部屋の片隅で聞いていたこともありました。私にはしょせん関係のない世界だって…」。

 そんな小林が出場歌手の中で誰よりも衣装で注目を浴び、連続出場32回を誇る“大御所”になるとは…。“もし、あの時…”「おもいで酒」を歌わず、出来の悪いままレコードをリリースして、キャンペーンもやらなかったら…。人生はどこにチャンスが転がっているか分からないものである。

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