永瀬正敏 昨年映画10本参加「本物」探求し「もっと攻めたい」 天国の相米監督に「OK」もらうまで

[ 2019年1月27日 11:00 ]

柔らかい表情を見せる永瀬正敏。見つめる先は本物への探求心(撮影・会津 智海)
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 【俺の顔】「この10年はもっと攻めたいと思っています」。俳優の永瀬正敏(52)から頼もしい発言が飛び出した。昨年は2月1日公開の主演作「赤い雪 Red Snow」をはじめ、実に10本の映画撮影に参加。デビューから常に「現場が終わってほしくない」と思い続けてきた思いをさらに加速させた印象だ。決意に満ちたまなざしは、恩師の故相米慎二監督に「OK」と言わせるという目標に向けられていた。

 映画俳優として日本のみならず、今年も明けてすぐにイランで撮影に臨むなど、海外にも積極的に飛び出している永瀬。その原点はもちろん1983年「ションベン・ライダー」だ。高校の友人に誘われて受けたオーディションで河合美智子(50)、坂上忍(51)とともに主要キャラクターに選ばれたが、いきなり相米監督の洗礼を受ける。

 「僕は、相米さんに1回もOKをもらっていないんです。OKは“まあ、そんなもんだろう”だったので。でも、役者をやめるという選択肢は自分の中に全くなかった。クランクアップの日に(撮影が)終わりたくないと思ったのが、今もずっとつながっている感じがしています」

 89年、当時ニューヨーク・インディーズの旗手といわれたジム・ジャームッシュ監督(65)の「ミステリー・トレイン」への抜てき、山田洋次監督(87)の「息子」で毎日映画コンクール男優主演賞に輝くなど、確固たる地位を築いていく。そのひとつひとつの出会いを糧とする中で達した境地は「本物」への探求だ。

 「三國連太郎さんも渥美清さんもそうですし、本物は皆いい人なんですよ。いろいろ経験したものがあってだとは思うんですけれど、僕はまだまだ。いい人にはなれないけれど、本物になりたい、近づきたいという願望が大きい。いつかなれるといいなと思っています」

 一方で、監督や共演者にも年下が増え、刺激を受けることも多い。今回、長編映画デビューとなる甲斐さやか監督(39)もその一人。そのオリジナル脚本に引き込まれた。

 「あっという間に最後まで読んで、この中に身を置かせてもらいたいと思いました。お会いした時のギャップが凄くて、可愛らしい女性なんだけれど、(人間の)暗部まで逃げないで書かれている。いつもニコニコなさっているんだけれど、とにかくブレない。その中で自由にやらせてもらえた感じが凄くありました」

 そういう積み重ねが、35周年の節目となった昨年の10本という数字に達した。その攻める感覚は言葉にするのは難しいが若い頃とは違っているという。

 「お話を頂ける時点でありがたいので、極力やりたいと思っています。昨年は十何年前に約束していた映画が実現したり、1シーンだけや友情出演というのもあってできたと思いますし、もっといろんな監督や共演者の方と出会いたい、作品づくりに参加したいという欲の攻めかもしれないですね」

 そう、永瀬は全てのスタッフ、キャストとともに一つの世界観を作り上げる総合芸術にこだわる生粋の映画人なのだ。昨年末に参加した台湾映画でも、撮影現場にベルリン国際映画祭などで多くの受賞歴がある巨匠ツァイ・ミンリャン監督(61)が顔を出す出会いがあった。

 「こちらから出向かなければ出会えないから大事にしたいし、4〜5年前に出会った人たちと今年何かできそうだというところまできているものもあるので、つながっている感じはします。社交辞令があまりないので、凄くうれしいですね」

 相米監督が亡くなって今年で18年。“同い年”の53歳になるが、いまだに大きな壁として立ちはだかっている。

 「先に逝っちゃったから、ひきょうですよね。永遠に“そんなもんだろう”の役者で終わっていると悔しいので、相米さんにOKと言わせる芝居をしたいというのがいまだに目標としてあります。僕が芝居をできなくなった時に、親父(相米さんの愛称)が全体を見て“おまえ、OKだったよ”と言ってもらえるといいなと思っています」

 親父を乗り越えてこそ、本物がより近づいてくるのではないだろうか。

 ≪主演作「赤い雪…」2月公開 真っさらな雪の中で「一発勝負」≫永瀬は「赤い雪」で、弟が失踪した際に見失った30年前のトラウマを抱えるうるし塗り職人を演じる。当時、重要参考人となった女性の娘(菜葉菜)と出会ったことで、記憶を呼び起こされていくサスペンスだ。雪深い林の中で、菜葉菜を追いかけるロングショットは壮絶で、「雪が真っさらな中で演じなければいけないので、本番は一発勝負でした。あの時のテンションは役者だけではなく、スタッフの皆さんも凄く高かったような気がします」と振り返る。そして「曖昧というのがキーワードで、見終わった人に持って帰って結末について話してほしい映画ですね」と話した。

 ≪周防作品に初参戦「勉強になりました」≫昨年秋には「呼んでいただけることはないと思っていた」という周防正行監督(62)の最新作「カツベン!(仮)」(12月公開)に初参加。日本映画黎明(れいめい)期に活躍した活動弁士を演じ、「脚本づくりの妙というか、日本映画の起源をエンターテインメントで伝えるということを思われた周防監督は素晴らしい。勉強になりました」と満足げだった。

 ◆永瀬 正敏(ながせ・まさとし)1966年(昭41)7月15日生まれ、宮崎県出身の52歳。83年「ションベン・ライダー」で俳優デビュー。以降、国内外合わせ100本近い映画に出演。2014年、台湾映画「KANO〜1931海の向こうの甲子園〜」では台湾金馬奨で中華圏以外の俳優で初めて主演男優賞候補に。写真家としても20年以上のキャリアがあり、数多くの個展を開いている。

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