林遣都 危機感を糧に初舞台「代わりはいくらでも…」姿勢変化、演技探求

[ 2016年9月2日 08:00 ]

「家族の基礎~大道寺家の人々~」で初舞台に挑む林遣都

林遣都インタビュー

 俳優の林遣都(25)が初舞台に挑む。一風変わった家族の歴史を描くコメディー「家族の基礎~大道寺家の人々~」(9月6~28日、東京・シアターコクーン)で、芸術家肌の長男役。16歳の時、映画「バッテリー」で鮮烈デビューしたが、20代に入り「焦りを感じ出しました。自分の代わりはいくらでもいる」と危機感や葛藤があったことを打ち明けた。現在は「すごく気持ちが充実しています」と演技への熱量が高まる一方。満を持して舞台デビューを飾る。

 静かな語り口から、意外な告白が飛び出した。

 2007年、滝田洋二郎監督(60)の映画「バッテリー」に主演して俳優デビュー。日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト・テンなど多くの新人賞に輝いた。今年は、お笑いコンビ「ピース」又吉直樹(36)の芥川賞受賞作を原作にしたインターネット配信ドラマ「火花」(全10話、450分)で売れない若手芸人・徳永を熱演。動画配信世界最大手「Netflix(ネットフリックス)」で、6月3日から日本を含む世界190カ国で同時配信された。

 順調にキャリアを積んできたと思われたが「20歳を過ぎたぐらいで、もっと自分はやりたくて、理想としているものがあるのに、それができていない環境に立たされた時、自分が満足できなくなってきてから、お芝居に真剣に向き合うようになりました。20代に入った頃、焦りとかを感じ出してからですかね。10代の頃は恵まれていたので、そういう感情はなかったんですが」と打ち明けた。
 
 過去に舞台のオファーもあったが「お芝居に対する思いの違いというか。そこまでの熱量がなかったのかもしれないです。今は向上心があって、どんどんどんどん新しいことをやっていかないと、(役者は)続かない、求められないと思っています。同世代や少し年上の若い役者さんたちもいろいろな舞台に出演して、いろいろな経験を積んでいる様を見ると、今回、自分もやりたいと思いました」

 「始まりが大きな映画(「バッテリー」)に出させていただいて、すごく恵まれた環境が続いていましたが、ちゃんと気持ちを持っていないと、向上心や探究心を持っていないと、全然、続かない世界だと、すごく強く痛感させられて。そうしないと、置いていかれてしまいますし、自分の代わりはいくらでもいますし。ここ2~3年、そういう思いが強くなりました」。危機感が仕事への情熱を生み、今回の舞台出演につながった。

 満を持しての舞台デビュー作は、劇作家・演出家の倉持裕氏(43)が手掛ける「家族の基礎~大道寺家の人々~」。倉持氏は00年に劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」を旗揚げ。04年に「ワンマン・ ショー」で演劇界の芥川賞と呼ばれる第48回岸田國士戯曲賞に輝いた。三宅弘城(48)が主演を務める「鎌塚氏、放り投げる」「鎌塚氏、すくい上げる」「鎌塚氏、振り下ろす」の「鎌塚氏シリーズ」などコメディーに定評があり、NHK「LIFE!~人生に捧げるコント~」(木曜後10・25)のコントも執筆している。

 今作は、風変わりな一家・大道寺家の波乱万丈な運命、挫折と再生を描くコメディー。林が演じるのはナイーブで芸術家肌の長男・大道寺益人。紆余曲折を経て、劇場「大道寺シアター」を経営することになる弁護士の父親役に松重豊(53)元女優の母親役に鈴木京香(48)妹役に夏帆(25)。父の小学生時代、夫婦のなれそめから始まる“大河ドラマ”で、大道寺家と関わる面々には堀井新太(24)黒川芽以(29)坪倉由幸(38)眞島秀和(39)六角精児(54)と実力派キャストが揃った。

 稽古開始から2週間の時点でインタビュー。林は開口一番「毎日、楽しくて仕方がない。新鮮なことだらけですし、常に得るものがあって。時間がアッという間に過ぎていく、そんな感覚ですね」と充実ぶりを語った。

 映像と舞台の違いについては「映像は気持ちが優先されることが多かった気がするんですが、舞台はそれだけじゃ全然ダメ。見せ方だったり、体全体の動きの表現だったりで伝えなきゃいけない。稽古初日に(演出の)倉持さんに指摘されて。『中途半端な動きは、たとえそれがリアルであっても、舞台だと伝わらない』『表情を変えているのは分かるが、表情を変えているだけじゃ伝わらない』」と身に染み、本番に備える。

 来年デビュー10周年。今後については「今、すごく気持ちが充実しています。この世界で、どこまでやれるか、常に試している状態。ただただ、それだけ。人の心を動かす、これだけありがたい仕事をさせていただいていて、やるからには、より人の心に残る作品を作りたい。それに出会うために、ガムシャラに1つ1つやっていきたいと思います」と展望。

 役柄についても「ずっとそうなんですが、できない役はないと思いたい。犬でもいいし。そういう心構えで」とオールOKの構え。「バッテリー」(野球)「DIVE!!」(飛び込み)「ラブファイト」(ボクシング)「風が強く吹いている」(駅伝)とスポーツを題材にして映画に出演しているが「例えば、そういうイメージがあるのであれば、どんどん覆していきたい感覚ですかね。覆せたら、すごく気持ちいいだろうなと。そういう連続ですね」。静かな語り口の中に闘志がみなぎっていた。

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2016年9月2日のニュース