【内田雅也の追球】「カジマーイ」の教訓 岡田監督が目指す野球ができるまでの辛抱

[ 2023年2月28日 08:00 ]

水たまりを横目にバスに乗り込む森下(撮影・岸 良祐) 
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 阪神キャンプ地、沖縄・宜野座村野球場にほど近い「恵ちゃん」は昨年まで評論家だった岡田彰布が昼食に訪れていた食堂である。監督になった今年は会えず、女性主人も「寂しいけど仕方ないね」と話していた。

 キャンプ打ち上げ後に訪ねると「終わったね」と笑顔で迎えてくれた。今月70歳を迎えたが実に元気だ。注文した名物の肉そばをつくると「早かった。あっという間だったよ」とまた笑った。
 「岡田さん、疲れたろうねえ。絶対疲れてるはずだよ」と岡田を思いやった。「そりゃあ、疲れるさ。去年までとは全然違うさ。気づかいがすごいもん。こんな大所帯を率いるとなると大変よ」

 少し前、球場での会見で岡田が「しんどいわ」と漏らしたのを聞いていた。65歳という年齢や体力面以上に精神的な疲労がある。年の功だろう、古希の恵ちゃんはお見通しだった。

 本来「マイナス思考」という岡田である。不安や心配は尽きない。キャンプの点数評価を聞かれると、いつも「背番号と同じ」と「80点」としてきた岡田が今春は「70点」だと言った。「早かったなあ。中盤から早かった。もうちょっと(キャンプ期間が)ほしいような気もするけどな」

 球場を離れるとき、少し名残惜しいような顔を浮かべた。まだ公式戦開幕まで1カ月あるが、すでに心労がたまってきているようだ。

 不安の最大の要素は救援投手陣ではないか。前回監督当時、JFKという盤石の必勝継投を生み出した岡田だが、今季のJFKはまだ見えてこない。当時の3人とは異なり、5人ほどで勝ちパターンの救援陣をつくる算段だが、期待はあるものの不安がついてまわる。
 最終日の練習は冷たい風が吹き、時折雨が降るなかで行われた。沖縄でニンガチカジマーイ(二月風廻り)という荒天である。ニンガチは旧暦2月で今ごろから3月中旬にかけてをいう。東シナ海低気圧の通過で天気の変化が早いのだ。

 ただし、カジマーイがすめば、潤い初めが語源とされる「うりずん」が訪れる。草花が彩りを増す光輝く季節である。しばしの辛抱なのだ。

 「健康でいることさ」と恵ちゃんは言った。「元気でいれば、何でもやれる、乗り切れる。岡田さんに言うとって」

 確かにそうだ。心も体も健康であれば、頭も切れる。岡田が目指す野球ができる。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月28日のニュース