【内田雅也の追球】岡田監督いよいよキャンプイン これから毎日眺める夕日に希望を見る日々でありたい

[ 2023年2月1日 08:00 ]

恩納村から見た夕日(撮影・大森 寛明)
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 阪神が宿泊する沖縄・恩納村の海岸沿いを国道58号線が走る。琉球王国時代はほぼ同じルートが首里に通じる「国頭方西海道」だった。村発行の冊子にある。いまは「おんなサンセット海道」と名づけている。東シナ海に沈む夕日が美しい。

 沖縄入りした阪神監督・岡田彰布はキャンプイン前日の夕方、ホテルで全体ミーティングを開いた。空は晴れわたり、美しい夕日が東シナ海に沈んでいく。

 岡田はしかし、夕日など目に入っていなかったのではないか。もう2月、戦いは始まっている。そんな感覚ではないか。

 自身で「マイナス思考」だという。この日も沖縄入りを前に記者団から「楽しみか」と問われ、「まあ始まるなって感じやから」、そして「そこまでの楽しさはない」と言った。選手の成長は楽しみの一つだが「1人でも出てきたら十分」。安易な楽観を好まない。

 幾度となく「シーズン0勝143敗から始まる」という考え方を聞いてきた。どんな大打者でも「今年は1本もヒットを打てないんじゃないか」、どんな大投手でも「今年は1勝もできないんじゃないか」と不安に襲われるという。それが練習や努力の原動力になる。監督なら「1勝も……」という不安である。

 楽しみや期待より、恐れや不安が先に立つ。<そうすれば、あらゆる可能性に対して万全の準備をして試合に臨むことができる>と著書『動くが負け』(ベースボール・マガジン社新書)に記している。つまりキャンプからオープン戦は0勝から1勝ずつ積み重ねていく日々なのだろう。

 15年ぶりに阪神監督に復帰した今年は、飛躍のうさぎ年。十干十二支の癸卯(みずのとう)は「厳冬が去り春の兆しが訪れる」との意味があるらしい。摂氏1度の伊丹から20度の沖縄に入った、この日の天候のようだ。

 十干で最後10番目の癸(みずのと)は「生命が一巡し、新しい巡りへと移りゆく年」である。

 70~80年代、ドジャースで活躍したスティーブ・ガービーに「春のキャンプは九つの命を持つ猫のようだ」との名言がある。「野球選手は未知数の命を持つ。キャンプの春が巡り来るたびに新しく生まれ変わるのだ」

 癸卯は「きぼう」と読む。希望に通じている。これから毎日眺める夕日に希望を見る日々でありたい。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月1日のニュース