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「外道」に感動 寒バヤ初釣り ウグイ“残念な魚”じゃない

[ 2024年1月17日 07:00 ]

釣りキチ三平に描かれた寒バヤ釣りの風景(C)矢口高雄/講談社
Photo By 提供写真

 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】釣り漫画の名作で故矢口高雄氏の「釣りキチ三平」誕生から50年。作品ゆかりの釣り場や対象魚に迫るルポ連載の新年第1弾は、ウグイに挑戦した。淡水釣りでは「外道」とされがちな昨今だが、三平では本命魚として描かれることも多かったはず…すっかり“残念な魚”になってしまったウグイを本気で釣ってみた。 (岩田 浩史)


 矢口氏が「子供の頃よく釣っていた魚の一つ」(妻・勝美さん)というウグイ。思い入れも深かったのだろう。三平シリーズでも、折れやすいヨシ(アシ)の竿で釣ったり、一年の釣り運を占う「初釣り」など印象深い物語に登場している。ちなみに冬は「寒バヤ」と呼ばれ美味とされる。

 今回の釣り場は栃木県鹿沼市。シマノのフィールドテスターで「鮎掛塾」を同市で主宰する加藤正士氏(65)にガイドを頼んだ。アユだけでなく栃木一帯の釣りに詳しい人だ。「今ウグイを狙って釣ろうという人は珍しい。私も何十年ぶり」と加藤氏。この時季、ヤマメやイワナは漁業資源保護のため禁漁期だが、ウグイは漁協の「雑魚日釣り券」(1000円)を買えば釣れる。

 東北道栃木インターから、山あいを流れる粕尾川を上流へ。小一時間進むと幅約5メートルのトロ瀬に着いた。川の曲がり角。荒瀬が川底をえぐり、深くなっている。澄んだ水の底にたくさんの魚が見える。深さは1メートルほどに見えたが、加藤氏は「透明度が高いから浅く見えるけどもっと深いですよ」と寄せ餌の塊をドボン。ウキ下は1・5メートル弱、極小のガン玉を3個かませ、練り餌をハリに付けた。

 気温8度。漫画のように雪景色ではないし、日に当たればそこまで寒くはない。だが、山陰の川べりの空気は冷たく、体が芯から冷える。当然魚の活性も低い。加藤氏は何度か仕掛けをポイントに流すと「今日は厳しいか」とつぶやいた。だが「餌を川虫にしましょう」と瀬の石を裏返してクロカワムシをはがし、ハリに付けて流すとトウガラシウキがぐぐっと引き込まれた。「来たっ」。竿をしならせ引き上げたのは22センチのウグイだった。

 ここで記者に竿が手渡されたが、風の中で軽い仕掛けをポイントに打ち込むのが想像以上に難しい。水面を流れるウキが一瞬沈むのも、魚の当たりか川底に一瞬ハリが掛かったのか判別し切れない。竿さばきが悪く、竿先からウキまでの糸がたるみ、合わせが遅れる。

 それでも30分ほどすると、何とか合わせに成功。来た!竿から伝わるブルブルした震えがたまらない。10センチもないウグイだが1匹目の緊張と興奮、喜びは格別だ。この日は約2時間で16センチを頭に6匹を釣って納竿した。

 実はウグイを含むハヤ類は全国で減少傾向。こんなにいる川は珍しいという。加藤氏は「この辺りは上流に水田もなく、農薬の流れ込みがないからかもしれません」と話す。ハヤ減少の原因の一つとみられているのはネオニコチノイド系農薬。米に小さな吸い跡を付けるカメムシ防除を目的に使われるが、これが川虫を殺しハヤ類を激減させた可能性があるという。人体への影響も懸念されている。

 減少中の寒バヤで上々の初釣りができたが、釣り人として考えることは多い。「合わせが良ければ倍は釣れた」という加藤氏の言葉も重い…。釣技向上が急務の一年となりそうだ。


 ≪日本酒とともに≫ ウグイは大きなものは塩焼きで、小さなものは唐揚げにして食べた。「泥くさい」「エグみがある」と言われがちだが、それは棲む水の環境によることが多いようだ。ふわっとやわらかい白身で、むしろ淡泊な味わい。漫画では、大人たちが日本酒とともに食す場面が描かれていた。一平じいさんの言う「いけるクチかい?」というセリフの意味も分からず読んでいたのを思い出し、あの頃は飲めなかった日本酒を口にした。

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